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ブラジルの神話伝説
目次
- 夜の起源
- 兎に尻尾がなくなった理由
- 蝦蟇に紫斑が出来た理由
- 虎に縞模様が出来た理由
- 羊がおとなしい理由
- 虎と牡鹿とが恐れ合う理由
- 牝鶏に斑点が出来た理由
- 猿が悪戯好きになった理由
- 虎と猿と山羊との知恵比べ
- 猿が飲み物を手に入れた話
- 猿の食べ物探し
- バナナが猿の持ち物である理由
- 猿に食われそうになった話
- 猿が尻尾が残っている理由
- 黒が白になった理由
- 鳩が人慣れっこくなった理由
- 海が唸る理由
- ブラジルの甲虫の甲羅が美しい理由
夜の起源
世界が出来上がった頃は旭日も夕暮れも月も、星もなく日中ばかりだった。この頃、太陽の底に住んでいた海の大蛇の娘が大地の人間の息子と結婚して大地の上に住むことになった。
しかし海の大蛇の娘は今まで薄暗いところで生活していたため照り付ける日中の生活が苦しくて仕方がなかった。日ごとに色つやが消えて、そぎ取るように痩せていく嫁のすがたを見ても夫は悲しそうな眼で眺めているしかなかった。妻は夜さえあればと父の国には影もあったから夜の暗闇が欲しいと言った。
夫は夜という言葉は初めて聞いたと妻に話の続きを伺った。妻は、父の國では重々しい影がやってくることを夜と呼んでいる、大地の日中は好きだが疲れたたと言った。
ほどなくして日頃から手足となって忠実に働いていた三人の奴隷が、主人のひざ元に呼び出されて深海の底の海蛇の王国に行って王様に会って大地に住む娘を救うため夜の暗闇を貰ってくるようにと伝えられた。
三人は海蛇の王様の所へ飛び立ちました。危険な旅が幾月か続きやがて大きな華やかな館が目の前に現れてきた。三人は大きな門をくぐって海蛇の王様に夜の暗闇を分けて欲しいと頼んだ。海蛇の王様は大きな袋に夜の暗闇をいっぱい詰め込んで、娘の所に届くまで口を開かぬようにと三人に渡した。
三人の奴隷たちは御前を去って館を後にしたが、袋の中から不思議な妖しい音が響いてきました。それは日が暮れて住んだ月が登って、涼しい夕風が吹くころ川のほとりから響いてくる獣や夜鳥や夜虫などのにぎやかな声だった。三人のうち一人はこの音におびえて夜の袋を放り出して逃げようと言いました。
すると二人目の奴隷はこのままではどんなことをしても命がないと脅えて言い、三人目の奴隷が、早く袋の口を切って恐ろしい音の正体を見ようと言いました。
三人は大地に袋を放り出して口を開くとたちまち獣や夜鳥や夜虫が物凄い唸りを建てて飛び出し、夜の黒雲が噴き出してきました。三人は飛ぶように草陰に逃げ込みました。
海蛇の王様は奴隷たちが出発した日から待ちきれないように、いつも立って待ち続けて、一本の椰子の樹の下には足形さえできてしまった。そして美しい遠いかなたの地の果てを見つめていましたが、袋から逃げ出した夜の黒雲は、瞬く間に地を這い空をかけて大空を進んできた。姫様は眠くなり椰子の樹の下に打ち伏して、美しい目を静かに閉じた。やがて眠りに飽きたように目が覚め、彼女は普段の潤いのこもった声に戻り天空には星が輝いていました。彼女は星を眺めながら、暁の明星を呼んで暁の賛歌を謳ってくれ、星たちは美しい空の女王様だと声を張り上げて言った。そして夜鳥たちの調べを聞き朝日の昇るのを鳴いて迎えるように言った。夜鳥たちは姫の前で歌い踊っていた。その中に一羽の雄鶏が姫の命令を待っていた。姫はその鳥を夜の番人として、「マズルガダ(暁の意)」が近づいたらいち早く他の者に伝え知らせるように言った。その鳥は頷き朝日が遠い果てから出てほのかに明るくなりました。すると夜の番人と呼ばれた鳥は大声で泣きました。すると鳥たちはいっせいに鳴き歌い出しました。暁の明星はマズルガダの女王として光っていますが、日が昇ると見えなくなる。やがて夜のとばりが消えて、日が昇りました。
一夜中叢の陰で震えていた三人の奴隷も、日の光を見ると胸をなでおろして、空っぽの袋をぶら下げて、森や叢を走って行った。待っていた主人は三人の姿を見ると、海蛇の王様が袋を開くなと言ったのに開いたことを咎め猿にして、その唇には夜の袋の口を封じた封蝋の跡を刻みつけた。こうして今日でも猿には袋の封蝋を咬み破ったという唇の所に、呪いの跡が残っている。そしてブラジルでは丁度袋の口が破れて夜の暗闇が出てくるように日が暮れます。すると獣や夜鳥や夜虫が叢の陰から森の木蔭から一斉ににぎやかにはやし立てるのです。
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兎に尻尾がなくなった理由
昔猫には尻尾がなくて、兎には長い尻尾が生えていた時があった。兎が大きな尻尾を振り立てて、通り過ぎていくと猫は決まってうらやましそうに眺めています。そのまなざしは尻尾が欲しいというような気持ちが見えていました。
無邪気でのんきな兎は尻尾をだらりと垂れて気持ちよさそうに寝ていました。丁度その時猫が光った小刀をもって通りかかりました。猫はこの小刀で兎の尻尾を切り取りました。しばらくして兎が目を覚ますと、猫は尻尾を自分の体に縫い付けて、後ろを向いてしきりに尻尾を見せびらかしていました。猫は兎より自分に尻尾が似合うと言って兎に笑いかけました。兎は大事な尻尾を盗まれたことも忘れたように猫をほめて、尻尾の代わりに小刀をくれと頼んだ。
猫は小刀を兎に渡した。兎は生まれて初めて珍しい小刀をもってこの小刀があれば何でもできると嬉しそうに森影へと飛んで行った。
森の中を進んでいくと小人のような老人が、籠をこさえているのが見えました。老人は刃のように鋭い歯で藺(い)を切って籠をこさえていましたが、兎が咥えている小刀を貸してほしいと言った。兎はすぐに小刀を老人に貸すと老人は急に元気づいたように藺を刈りだしたがすぐに小刀は真っ二つに折れてしまった。兎は小刀の代わりに籠を一つもらいたいと言うと老人は一つ籠を渡しました。兎は小刀の代わりに籠を貰って、尻尾はいつでもこさえられると自分に言い聞かせて、一人微笑んでまた森影へ飛んで行った。
するとある広場に出て、そこではよぼよぼのお婆さんが口をもぐもぐさせながらチシャを摘み取って前掛けに入れていた。兎の姿を見つけたお婆さんは兎の持っている籠を貸してほしいと頼んだ。兎はすぐに籠を貸してやり、お婆さんは元気づいてチシャを摘み取っては、籠の中へ入れた。すると籠の底が抜けてしまい、兎はチシャを代わりにもらい、尻尾の代わりに小刀、小刀の代わりに籠、籠の代わりにチシャを貰ったと嬉しそうに跳んで行った。しばらくしてお腹が空いてしまい、我慢できずにチシャを食べてしまった。兎はご馳走を食べたことに満足して尻尾なんかとっくの昔にくれてやればよかったとチシャを平らげた。兎はこうして尻尾がなくなり、ただチシャさえあれば尻尾なんかどこにあるかというような顔をしておいしそうに、嬉しそうに、今にそれを食べている。
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蝦蟇に紫斑が出来た理由
昔蟇蛙は津別べしたすべっこい膚でその頃はあっちこっち歩き回り家の中などにいたことはあまりなかった。一度催しでもあると聞いたら、遠くても飛び出すものであった。
ある日一通の招待状が届いてその催しは大空で開かれることになっていて、日頃から仲良しの蟻食いが足の遅い蟇蛙には空中飛行はできないとからかい、蟇蛙も負けじと自分のやることを見ていろと言い返した。
蟇蛙の家からほど遠くないところに、嫌われている黒鳶(くろとび)が住んでいた。たくさんの鳥や獣たちが集まると黒鳶の悪口が始まるほどであった。蟇蛙は嫌われ者の黒鳶の住処目指して急いでいくと、黒鷹は一人ぼっちの寂しさを慰めるようにバイオリンを弾いていた。
蟇蛙は黒鳶に大空で開かれる会合のことを話してそれに行くか尋ねると、珍しく友達の顔を見て嬉しそうに自分も丁度行きたいと思っていたと答えた。蟇蛙は自分を黒鳶の体に乗せて一緒に空中旅行をさせてほしいと頼んだ。黒鳶は承知していつ旅立つか尋ねた。蟇蛙は四時に自分の家から立つことにしようと言い、来るときにバイオリンを用意するように言った。
やがて四時になると黒鳶は、バイオリン片手に飛び立たんばかりにうち喜びながら蟇蛙の住処へやって来ると、蟇蛙はまだ用意が出来ずに部屋中を駆け回っていて黒鳶にバイオリンを戸口におかせて中へ招いた。そのすきを見すました蟇蛙は、バイオリンの中に身を潜めてしまった。
ずっとまっていた黒鷹はあくびをしたり足を投げ出したりしていたがとうとう飽きてしまい、やがてバイオリンをつかんで空高く舞い上がって行った。会合の席にはたくさんな客たちが集まって、ワイワイと騒いでいて、心持遅く駆けつけた黒鳶は蟇蛙もお供するというから、待っていて遅くなったと言い訳をしたら、蟇蛙が口惜しさに泡吹いて藻掻くのを見たくて招待状でからかったといい、バイオリンを隅に置いて酒宴をに勧めた。黒鳶がバイオリンを静かに置くと、蟇蛙が目に見えぬ速さでバイオリンから飛び出ると客たちの耳元から耳元へとあざ笑って歩きました。蟇蛙は嬉しくて面白くて踊ったり跳ねたりしていた。黒鳶はこれを見て訝しそうに尋ねると、蟇蛙は自分がどうしてここへたどり着いたかはいずれ話すと言って食べては踊って歩いていた。日頃から除け者の黒鳶は顔をむくりと膨らませて、さもつまらなそうにしていたが、酒宴が盛んになるというとき客に挨拶もせずに、バイオリンも持たないで、こそこそと引き上げてしまった。
にぎやかな宴会は終わって、蟇蛙は客たちの眼を盗んで、ふいとバイオリンの中へ飛び込むと息を殺して、黒鳶が来るのを待ち構えていた。鳥たちが帰ったのかあたりが静まり返っていたが、待っても待っても黒鳶はやってこなかった。バイオリンの中で来たことを後悔していたが、鷹がバイオリンを見つけて、黒鳶の所にもっていくことにした。鷹はバイオリンをひっつかんで、大空をかけて行くと蟇蛙はバイオリンの中で揺れ動いて疲れてしまい、鷹もまた大きな翼が言うことを聞かなくなるほど疲れてしまった。鷹はバイオリンを黒鷹に届けるのをあきらめ、バイオリンを落としてしまった。バイオリンは風を切って、下へ落ち、バイオリンは砕けて、蟇蛙は小石で傷ついてしまった。黒鷹はバイオリンのことを忘れて、体中にあざができた蟇蛙の子とも知らないで、つまらない日を送っていた。こうして蟇蛙には醜い紫斑(しはん)が体中にできた。そしてほどなく遠歩きもできるようになった。
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虎に縞模様が出来た理由
昔虎には縞模様がなく、兎にも尻尾があったとき、一人の虎が畑を持っていました。畑には、雑草が茂っていて、耕して食べ物をこしらえるために人手を借りなければならなかった。虎の命令で、たくさんの獣たちが集まり話し合っていると、大勢の前に顔を出した虎は畑の雑草を除去するために働いてほしい、報酬は牡牛を一頭授けると言った。獣たちはお互いに顔を見合わせていると、猿が前に出た。虎は承知したが狡猾で働き嫌いの猿は始めのうちは真面目腐って働いていたが、虎の眼を盗んでは大きな欠伸をしたり、昼寝をするようになった。とうとうこれを嗅ぎだした虎は、報酬を与えないで、追い出した。
猿に入れ替わったのは、山羊で頭が固くて全く働かないので一度言いつけられたら、雨が降っても日が暮れても、働いた。もともとうすのろだったので畑の片隅で働いていると思うと、いつの間にか別の方角で、せっせと働いて、手際よくうまく仕事をすることはできなかった。虎は怒って報酬も与えず、追い出してしまった。
次に現れたのは蟻食いで、身体任せの大の働き屋で、言いつけられたことは懸命に働いた。けれど、畑に沢山の蟻がいるとその味を占めたら、働くことを忘れて、アリたちを漁ってしまった。こうして一日中口ばかり動かしていました。虎は報酬も与えないで追い出した。
とうとう兎が虎の家を訪ねてきて、虎は兎のちっぽけなのを見て嘲笑して追い返した。
それからしばらくは仕事を引き受けようというものはなく畑は、みるみる雑草で食い荒らされていき、虎は気を揉んで仕方なく兎を呼び寄せて試してみることにした。兎はせっせと働いて、一日だけで、雑草を刈り取ってしまった。その次の日も日の登らない内から懸命に働いて、畑は気持ちよく浄められて行った。こうして虎は兎を信じ切ってしまうと見張も飽きて子供に代わりを頼みながら狩りに出かけた。
兎は虎が見えなくなると働く手をとめて一息つきながら小虎に父虎がくれるという牡牛は左と右の耳に白い斑点が一つずつあるのではないかと尋ねた。小虎は体全体が真っ赤で右の耳に針くらい細い城の斑点があると答えた。黙って働いていた兎は暫くしてまた、父虎が暮れる牡牛は皮のほとりに置いてあるんじゃないかと尋ねた。すると小虎はそうだと正直に答えた。
兎は牛さえ手に入れば働く必要がなくなると言って、牡牛を連れ出そうと企み飛び上がって河の辺りに駆けつけようとしたところ、虎が帰ってきて、そわそわした兎の振る舞いを見て妖しく思い、仕事の出来が減っているから油断はできないと見張りを続けることにして、兎の体に眼を光らせていた。ほどなくして仕事も無事に終わりました。虎は約束の牡牛を与えて、この牡牛を殺すには蠅や蚊のいないところでしなければならないと言い聞かせた。兎は牡牛を連れ出していき、虎の畑が見えなくなって草原を通り森影を抜け少し行くと、早速雄牛を殺そうと考え始めた。するとどこからともなく草陰から、鶏の鳴き声が聞こえた。畑が近いと考え蠅がいては剣呑だと独り言を言って歩き続けていくうちにまた雄牛を殺そうと考えました。
木の葉も地面も湿っぽいところで、蚊の住処だと思い剣呑だと独り言を言って、そのまま歩いていくと、間もなくそよ風が吹く高台に出た。蠅も蚊もいないすがすがしいところだと考えて、兎が雄牛の肉を食べようとすると、そばの叢が騒いでさっきの虎が現れてきた。虎は兎を見てお腹が空いたときに丁度ご馳走を用意していてくれると言って一人で決めて雄牛を食べる気になっていた。兎は仕方なしに一片の肉を与えた。虎はご馳走はこれだけかと恐ろしい剣幕で兎は仕方なく一片一片と虎に与えた。虎は遠慮なくむしゃむしゃと食べてあれだけあった牡牛のご馳走はすっかり虎が平らげてしまってけろりとした顔をしていた。
たった一切れしか食べることが出来なかった兎は口惜しさに涙を呑み下しながら、欲深そうな虎を見ていた。
こういうことがあって暫く跡ある日兎は虎の住処のすぐ近くで木を切っていた。そばを通った虎はどうするのか尋ねた。兎は自分の周囲に木矢来(きやらい)を造ろうとしている、獣たちは皆木矢来を造って自分を守れという命令が出たからと。虎はそれを知らないそぶりで、兎は続けて獣という獣は皆木矢来をつくるため働いているといった。これを聞いた虎は急に狼狽えて、すっかり忘れていたと兎に自分の分も作るように頼んだ。兎はきっぱりと断ったが、虎はしつこく頼み兎は何か含んだように承知して、虎の周りに棒を建てていき、虎を囲んでしまった。兎はそのまま帰って行き、虎は安心して喜び待ち続けていた。そのうちにだんだんとお腹は空くし喉は乾いて、一匹の猿が通りかかって虎は猿に危険が過ぎたか尋ねた。猿は何のことかわからなかったが、すぐにそうだと答えた。虎は猿にここから出してもらうように頼んだが、猿は入れてもらったものから出してもらうようにと日頃の怨み思い知れと言わんばかりに答えて行ってしまった。
次に山羊が通りかかり、危険が過ぎたか聞くと、山羊も何のことかわからない様子だったがすぐに、そうだと答え、虎は木矢来から出してくれと頼んだ。山羊も日頃の怨み思い知れと入れてもらったものからだしてもらうように言うと行ってしまった。
蟻食いも同様にふるまい、虎は木矢来から出ようともがいたが、なかなか出ることが出来なかったが、やがて木矢来は壊れてそれと一緒に虎の体も鋭い木矢来に裂かれて筋でも引いたように傷を受けた。虎の縞模様はこうした傷の跡だと言われている。
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羊がおとなしい理由
昔一匹の子羊が嬉しくてならないように野原で飛んだり跳ねたりしていた。太陽もこの有様を見ていつもより笑っていて、風も子羊につられていた。
子羊は今しがた食べたばかりのご馳走が、美味しかったと腹鼓を叩き続けていた。そして自分がこの世で一番偉いと心の中で思っていた。
さっきから地面にしゃがんだままいた蟇蛙がどうしたのか尋ねると、上機嫌な子羊はこぼれ落ちそうに笑いを浮かべ、こんなに愉快な日は生まれて初めてだと踊り始めた。蟇蛙は子羊を海の中に引きずり込むくらい簡単だと嘲りました。
天上界にも上って行くような気持ちになった子羊は、笑って地面に転げ、蟇蛙はますます忌々しく思い、挑発し縄の端をつかんでいるように言いった。子羊はへらへら笑いながら、縄の端を握り、蟇蛙は海辺へ行き海の上にかぶさるように生えた一本の樹に登り鯨の背に飛び乗り縄の端を鯨の体に結えつけ、鯨はお気を目指し泳ぎ、子羊の体は波際に引きずり寄せられた。子羊は水の中へ飲まれる一歩手前で降参した。
こういうことがあって幾日か経ち、子羊がいくらかおとなしくなった。今日も太陽は嬉しそうに野原や山を照らして、いつの間にか再び踊り出した子羊は一人天下と踊り狂っていた。
蟇蛙に海辺へ引きずり出されたことは忘れていた。これを眺めた蟇蛙は競争をしようと言い出した。羊は上機嫌で競争を引き受け、蟇蛙は決勝点を決め、時々自分に声をかけるようにと子羊に注文し、二人は走り始めた。あらかじめ呼び出されていた蟇蛙の兄弟姉妹、従姉妹や叔父さん叔母さんはコースに沿って所々に立っていた。もし子羊がラキュレイ、ラキュレイ、ラキュレイと叫ぶといち早くそれを聞きつけた蟇蛙はグルグバンゴ、バンゴ、レイと答えることになっている。勢いよくかけていた子羊はほどなく約束を思い出して、蟇蛙が後ろで泡を吹いていると独り心に決め込み、わざと元気そうに叫ぶと、蟇蛙の声はすぐそばで聞こえた。子羊の足は一際速くなり、大丈夫と思った頃に空元気を着けて叫ぶと、またすぐそばから蟇蛙の声が聞こえた。子羊は驚き一層早く駆けた。息が切れて目が眩みだした頃決勝点へ倒れ込むと、そこには蟇蛙と瓜二つの弟が笑いながら立っていた。子羊は負けて真っ青になりしおしおと野原へ引き返していった。あくる日になると蟇蛙が訪ねてきて、王様の御姫様に子羊の背に跨り手綱を取った姿を見せると約束したから付き合うようにと見下すように言った。子羊は癪に触って、きっぱりと断った。
こんなことがあって暫くの後、上天気の日がやってきた。性来陽気な子羊はすっかりいい気持ちになって海に引きずり込まれたことも、競争に負けた口惜しい思い出も、忘れてしまった。そして野原の片隅を眺めると、蟇蛙が唸っていた。子羊は可哀想でならないと何かできることはないかと尋ねると、蟇蛙は疑るように子羊に大きな力仕事ができるかとつぶやいた。子羊はできると言って、その内容を聞き返した。蟇蛙はお姫様の所に連れて行ってくれる人が欲しいと悲しそうに言った。子羊は気の毒に思い自分の背中に飛び乗るように言った。蟇蛙は出し抜けに元気づいたように、子羊の背に飛び乗って、舌を出し、子羊はのそりのそりと歩き始めた。
蟇蛙は子羊が足を動かすたびに揺り動かされて、不憫そうにふるまった。しばらく経つと体を支える物が欲しいと草を加えてその両端に捕まりたいといった。子羊は一本の草を口にくわえ、その両端をしかと蟇蛙に握らせて、手綱とした。子羊は轡をはめた乗馬のようになり歩き続けた。するとほどなく、蠅や蚊がたかってくるから棒が欲しいと言い子羊は一本の棒を蟇蛙に与えた。蟇蛙はその棒を子羊の頭に振りかざしていた。
蟇蛙を載せた轡を付けた子羊はお姫様の館へ乗り込んで、美しいお姫様は、窓のそばに寄り添っていた。蟇蛙はいきなり元気づき手綱をしめ、両足で子羊の脇腹を締め、棒を羊の頭にかざして、
「天と地との国の王子、海と山との国の王子、蟇蛙様のご入来、乗馬よ、いざ進め」
と叫ぶと、お姫様は笑って笑い崩れた。子羊は気が狂ったのか、と人々の笑い声がどっと響いた。子羊は目を小さくして、何も言わないで大人しく自分の家へ帰って行った。こういうことがあって以来、人々は今日でも「従順」ということを口にすると、「羊のようにおとなしく」というようになった。
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虎と牡鹿とが恐れ合う理由
昔美しい大きな角を持った牡鹿がいた。ある日住む家がなく嫌になり、良い住処を求めて丘を登り谷間を降り、渓流を伝って歩き良い住処を見つけた。牡鹿は見つけた良い住処に胸を躍らせせっせと働き日が暮れると汗を拭いて出て行った。丁度この時、一匹の大虎が同じ国に住んでいた。ある日住む家がなく嫌になり、良い住処を求めて丘を登り谷間を降り、渓流を伝ってよい住処を見つけた。虎は見つけた良い住処に胸を躍らせ闇の中を動いて夜が明けると出て行った。すると牡鹿が続いて現れて、住処を見ると見違えるほどに美しくなって誰か加勢に来たものと喜び働き土台を建てた。土台ができるとまたどこともなく夕闇の中に姿を消した。すると虎が現れて土台を見て誰か加勢に来たと思い懸命に働き、柱を土台に据え、壁を組み立て、大きな扉や窓をつくると、明け方には牡鹿がやって来て住処の窓や家の大きな扉やこぎれいな窓を見ると本当に加勢が来ていると訝しそうに頭を傾けていた。彼は再び働き出し、乾草の屋根を造ると日が暮れると早速ぐっすり眠ろうと乾草を隅に敷くと眠り込んでしまった。すると、虎がやってきました。目の前にはいつの間にか乾草の屋根のある見事な家が建っていた。彼は驚きの眼を見張り、訝しそうに、本当に誰か加勢に来ているとつぶやき、部屋へ踏み込んでいった。入口へ踏み込んでみると牡鹿が部屋の隅に寝ていたので、何をしているのかと怒鳴ると牡鹿は跳ね起きて、自分の家に何しに来たのかと怒鳴り返した。虎は自分の家だといったが、牡鹿も自分の家だと言い返した。二人が言い合いをしているととうとう夜が明け、二人は喉が枯れ疲れて仲直りし一緒に住むことになった。初めの一日は静かに打ちすぎた。夕方になると虎は狩りに行くからその間に水を汲んで火を起こしておくように言い捨てて、出て行った。牡鹿は木を伐り水を汲んでくるとやがて虎は見事な大鹿をもって帰ってきた。胸騒ぎがした牡鹿は食べる気もせず、その夜は少しも寝ることが出来なかった。次の日早く起きた牡鹿は虎を呼び起こして水と薪の用意をしておくように頼み狩りに出かけた。虎は仕方なく薪を伐り、水を用意しておいた。しばらくして牡鹿は帰って来て右手に虎の屍を引きずっていた。牡鹿は肉をほおばったが、虎は一切れも食べなかった。やがて夜になると牡鹿と虎は互いに体を並べて床に就いて、二人は互いに殺されまいかと眠さをこらえていた。夜はだんだんと明けて行ったが、二人の不安はますます募って行った。
明け方近くになって堪り兼ねた牡鹿は頭をもたげると丁度角が屋根を打ち壊して大きな音が立ち、昨夜から心をおののき震わせていた虎は牡鹿がとびかかってきたと思い跳ね起きると入口を尽き抜けて、雲を霞と逃げ去った。虎が飛び上がったのをちらりと見た牡鹿は、自分に襲い掛かってくるのかと思い入口から飛び出ていった。こうして今日でも虎は牡鹿の姿を見れば、牡鹿は虎の声を聞けば逃げるようになった。草や根の家は、後にポツンと取り残されて、高くも低くもなく、河近くでも遠くでもなく、日陰でも日向でもないところにいつまでも待ちわびて壊れて落ちて塵の堆積となった。
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牝鶏に斑点が出来た理由
昔一羽の真っ白い牝鶏があり、朝には小声で歌いながら朝飯に蛆虫を漁っていた。すると不意に一枚の紙片を見つけ、彼女はそれを見つめながら、話に聞くには王様が近くの野原に館を建てていたころには王様へ手紙を捧げようと詰め掛けた人々の群れが毎日打ち寄せたとのことで、自分も手紙が手に入ったからには王様に差し上げようと、次の朝牝鶏は手紙を小籠に入れて長い旅に出た。牝鶏にとっては生まれて初めての長旅だった。牝鶏が歩いていると、ほどなく仲良しの狐と会った。昔この狐が罠にかかったとき牝鶏から救われたためその親切を狐は忘れたことがなかった。狐が牝鶏に何をしているのか尋ねると牝鶏は王様の所へ手紙を届けると答え、狐は自分も一緒にお供したいというと、牝鶏は喜んで持っていた小籠に入るように言うと、狐は牝鶏の小籠へ体を横たえた。しばらく行くと河に出会った。昔、牝鶏がこの河の辺りを通りかかると蛆虫どもが堤防へ投げられてはまた河の中へ這いこんでいて河を苦しめていたところ牝鶏がくちばしで蛆虫を平らげてあげたことがあり、それから仲良しとなったのであった。河がどこへ行くのか尋ねると牝鶏は王様の所へ手紙を届けると答え、河は自分もお供したいと言った。牝鶏は喜んで持っていた小籠の中へ入るように言うと河は小籠の中へ入った。またしばらく行くと、火に出会った。昔白牝鶏は死にそうになっていた火を見て枯草を食べさせてやったことがあった。火が白牝鶏にどこに行くのか尋ねると白牝鶏は王様の所へ手紙を届けると答え、火は自分もお供したいといった。牝鶏は喜んで火に小籠の中に入るように言った。籠はあふれるばかりに一杯になり座るところもないと知った火は、灰に姿を変えて、やっと籠の中に体を入れることができた。
白牝鶏は再び長い旅へ上り、歩いていると王様の館へ着いた。門番が牝鶏に何者で小籠の中に何が入っているか尋ねると、牝鶏は王様に手紙を届けに来たことを答えた。生まれて初めて厳かな館を見て胸を騒がせた牝鶏は門番の声に震え上がって、手籠の中の狐や河や火のことをすっかり忘れていた。門番は牝鶏を通し館の中へ入って行った。館の中は鏡のように輝く周囲の壁、黄金をちりばめた高い天井で月の世界のように華やかで美しく映っていた。牝鶏は夢中になって門番の後についていった。王様の前に着くと牝鶏は平伏すと王様は何の用でここに来たのかと尋ねた。牝鶏は小さな胸を打ち震わせ、手紙を届けに来たと答え、手籠に入れていた手紙を差し出した。手紙には狐の座った足跡や、河が横たえた濡れ跡や火が横たわってあいた穴などが汚く浮き出ていた。これを見た王様は叱り飛ばした。そして家来に鳥小屋に放り込むように言いつけると、家来は牝鶏を鳥小屋に投げ込み、夢心地になっていた牝鶏は大地にたたきつけられて正気になり、手には一緒に旅をした籠が握られていた。小さな白牝鶏が投げ込まれたというので大勢の鳥たちは群がり集まっていた。牝鶏の柔らかな羽毛は見る間に食い荒らされて大事な目までも喰い取られてしまいそうになりました。小屋の天上に暴れる音が響き、闘いが起こり始めた。すると一羽の鳥が籠を開いた。すると、狐は一羽の鳥をかみ殺し、小屋は今にも壊れてしまいそうだった。大勢の鳥たちはいつの間にか骸となり小屋の中には真っ赤な血がたまって、狐は口を真っ赤に染めて牙から血潮を垂らしていた。恐ろしい響きに驚いた王様は、お妃や家来を連れて駆けつけてきた。狐はこれを見つけて小屋を突き抜けて逃げて行った。牝鶏は手籠をもって狐の後を追い、家来たちはそれを追い牝鶏は捕まりそうになった。すると河が籠から飛び出して家来たちの前に水が流れ始めた。家来たちは河に落ちそうになり、丸木船を用意しようと言い出した。丸木船ができると家来たちは乗って水面を渡って行くと、牝鶏の姿は遥かかなたの叢に消えそうになっていた。やがて深い森の辺りに木て素早く飛び込んだ牝鶏は木陰に身を潜めた。家来たちが近くへ到着すると、火は灰に姿を変えて躍り出て一面に飛び散った。周囲は闇と化し周りは混乱した。仲間を失った家来たちは牝鶏をあきらめて命からがら闇から這い出て逃げ帰った。鳥をすっかり殺された王様はそれからは、牛肉や羊肉で辛抱しなければならなかった。灰に姿を変えた火はあたりに散らばって、牝鶏の体にも雨のように降りかかり、灰が降りかかったところだけは黒い斑点となって残ってしまった。生まれる雛鳥も、その雛鳥も、今日生まれる雛鳥もみんな黒い斑点を持っている。
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猿が悪戯好きになった理由
昔、とある花園に、いろいろな樹の実がなっていた。その二住んでいる獣たちは、思うままに果実を食べることができた。しかし果実をとる前には樹の名前を呼んで、頭を下げながら、お願いをしなければならない掟があった。赤青木紫の木の実がなっているのを見ると獣たちはいちいちその樹の名を呼んでお願いすることを忘れなかった。そしてもう一つ大切な掟があり、それは美しい樹が新しい樹を増やすために、無暗に食べ荒らしてはならないということであった。この園に住んでいれば空腹になることはなかった。だんだん歩いていくと無花果(いちじく)の樹があり、一匹の獣はお願いして樹に登ると、かなたには黄金のような蜜柑がなっていてそこでも他の獣が蜜柑の名を呼んでお願いして実をとっていた。
園の片隅に、王者と言われるほどの果樹があった。薔薇のように赤い果実であった。通りかかる獣は皆うらやましそうに上を仰いでは、口をもぐもぐさせって通り過ぎていた。一人としてこの果実の味を占めたものはなかった。なぜなら誰もこの王者のような樹の名を知らなかったからであった。
園の端の叢に一軒の小屋があり、その小屋の主は侏儒(こびと)のお婆さんで、獣たちの間では「物知り婆さん」と言われて、この園の中にある樹はすべて知っていた。王者のような木の実が欲しいと思いこの樹の名を訪ねに来た獣は数限りなかったが、その名が難しくて、その樹の下まで来る頃にはすでに忘れてしまっていた。
獣の仲間でもよく考えることが好きな猿が、大きな口を結んで考えていた。考えた結果、彼はギターを取り出して、お婆さんの家へ歩いていき、お婆さんから難しい不思議な樹の名前を聞いて、それに節をつけて、ギターの音に合わせて歌い続けた。お婆さんの小屋から不思議な樹の下まで長い道のりを謳いながら進んだ。道中出くわした獣たちは、猿を見てどうしたのか尋ねたが、猿はそんなことに眼もくれず、ただ歌って歩いた。樹の下まで来た猿はお辞儀をしながらお願いすると、樹に登り大きな実をもぎ取ってかぶりつくと、猿の顔はその果実の渋くて苦くて臭い味にしかめて腹を立てるとその果実を遠くへ投げてしまった。しかし、心を込めて覚えた長い難しい名前は猿の脳裏に焼き付き、いつまでも消えずに残った。不思議な果実の味も忘れなかった。猿は二度と不思議な果実にかじりつく勇気はなく、その後は仲間に会うたびに片っ端から誘い出してはその果実を食べさせては手を叩いて喜んでいた。
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虎と猿と山羊との知恵比べ
昔虎が、仲間の家を訪ねようと思い道ずれを欲し山羊に一通の招待状を送った。人の好い山羊は喜びながら、早速連れ立って出かけた。すると間もなく、沼地へ着き底なし沼が足止めとなった。心の中で震えていた虎は、表情を隠しつつ、山羊を見て恐れずにわたるように挑発した。山羊はむっとして、自分の勇敢を見せるように沼へ入った。山羊は沼の中でもがきながらわたりだし、虎は沼の縁を遠回りしながら、歩いて行った。ほどなくして泥まみれで這い出てきた山羊は虎と合流した。そして二人は再び歩み続けた。やがて、バナナの茂みにたどり着き、虎は山羊にバナナを食おうと言い、山羊に登って熟した物を落として、山羊は青い物を食べごろだと言って頼んだ。山羊はすぐに木に登り熟したバナナを虎に落としてやり、山羊は青いのを食べた。二人は再び歩み出して、ほどなく一匹のコブラが道の真ん中に蜷局をまいていた。虎はこれを見て、襟飾りに娘への土産にしたらどうだというと、山羊は恐ろしい毒蛇もものともせずに、近寄って行ったため虎は冗談だと伝え、捨てるように押し止めた。
二人が虎の仲間の家に着いたときにはもう夜になっていた。二人いは釣床を共にして眠った。昼間さんざん働いた山羊はすぐに寝込んでしまった。すると虎がこっそりと戸口から出ていき、羊囲いに忍び込んで、子羊を取って食べ、程なくかえって来ると山羊に生血を塗り付けて横になった。次の朝、家の主人は子羊が一匹いなくなったことに気づき、虎を怪しんで寝ている虎の寝床に来るとたたき起こして責め立てた。虎は子羊の血が自分についているのかと証拠を求めると機嫌を損ね、主人が山羊の体を見ると子羊の血がついていたので、羊を食べた犯人と思い山羊に躍りかかり、殴って打ちのめした。山羊は命からがら逃げだした。こういうことがあって、人々は、騙されやすい人を「山羊」と呼ぶようになった。
暫くたって、虎は再び招待状を出して猿をお供に仲間の家へ旅立った。猿は笑いながら、虎と連れ立って行った。やがて沼地へ来ると、虎は山羊にしたように猿に言うと、猿は逆に虎に先頭を進めた。虎は仕方なく沼に入り進んでいった。猿は虎の苦しみをしり目にかけ赤い舌を出すと、沼野縁を歩いて行った。今度はバナナの茂みに来ると、虎は、山羊に言ったように猿にバナナを食べようと言うと、猿は木に登り熟れたバナナは猿が食べて、虎hには青いバナナを渡した。やがてコブラの側を通ると、虎はまた山羊に言ったように猿に言うと、猿は虎こそもっていってはどうかと言って虎をへこませた。
二人が虎の仲間の家に着くと、夜更けになっていた。二人は仲良く吊床を共にしたが、賢い猿は虎が狸寝入りをしているとわかると、そっと片目を開けて、あたりを見回していた。すると虎は起き上がって、戸口から出ていき、これを見た猿は何をするか見届けようと、考えてついてった。虎は羊小屋の所へ来ると、一番大きな子羊を捕らえて食べると、吊床へ戻って来て、そばの猿めがけて血を振りかけようとすると、猿は身をかわして虎は力いっぱい押した。血は虎の体に降りかかり、真っ赤になった。猿の体には一滴もかからず、翌朝になった。家の主人は、羊がいないことに気づくと怒ってまた二人の部屋に駆け込むと虎にとびかかり虎を打ちのめした。虎はへとへとになり、命からがら逃げだし、歯を食いしばって家に帰った。
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猿が飲み物を手に入れた話
昔猿が虎を怒らせたことがあった。ある日猿がマンゴーの枝に座ってギターを弾いていると、虎が通りかかって、その下に休んだ。悪戯好きの猿がこれを見て、虎をいじめようと、ギターの音に載せて嘲りの小唄を謳い出した。
「あは、は、あは、は 虎公の骨は しまってあるよ 私のギターに あかんべ、あかんべ」
虎はみるみる怒り出し、猿は逃げ出し、虎は猿を探しまわった。猿は木から降りて大地の穴の中に身を潜め、虎はこれを見つけて近付くと、猿はまた例の唄を歌い出した。
虎は手を穴の中に差し込んで、猿の足を捕らえた。
猿は自分の偽の足を捕らえたとあざ笑うと、虎は穴の前で地団駄を踏み、せっかく捕まえた猿の足を手放してしまった。
猿はますます奥深くに潜り込み虎が探っても何も捕まらなかった。猿は虎がつかんでいた脚は自分の本当の足だったことを明かして嘲り、再び例の唄を歌い出した。
虎の顔は真っ赤になったり真っ青になったりし、穴の前で睨み待ち構えていた。猿は全く出てくる様子もなかった。猿は別の入口から抜け出ると、樹に登ってまた例の唄を歌い出した。
丁度この時水が干上がって旱魃が続いていた。この国の中でただ一つ、水が吹き返っている泉があった。泉はあらゆるところから昼夜戦いのように水を求めてきた獣たちでにぎわっていた。
冷たい水を飲んだ虎は猿が来るのを泉の近くで待っていた。さすがの猿ものどが渇き泉の側へ近づいて来た。しかし虎を見つけると素早く逃げ出した。
虎は、じっと待ち続けて泉の傍らを睨んでいた。待ちつかれた猿は知恵を振り絞り名案を考え出した。
猿は死体のように道端に横たわると、ほどなく一人の女が蜜甕(みつがめ)を入れた籠を頭に載せて通りかかり、猿を見つけると拾って籠の中に入れた。猿は籠の中で蜜を舐めて体中に塗り付けた。やがて女は森の茂みへ差し掛かり、猿はあたりが薄暗い事を知ると籠から樹へ飛び移り逃げ延びた。家へ帰りついた女は子供たちに取り囲まれ籠を開くと、猿はいなく、蜜は半分に減っていた。女はこれを見て怒った。
猿は木の葉の間を行くうちに木の葉は蜜で猿の体中を蔽ってしまいすっかり姿を変えた猿は、お母さんの所に帰ってきた。しかしお母さんは豪猪(ハリネズミ)のように変わった猿を見ても誰だかわからなかった。猿はやがて泉の側へ現れ、虎は未だ泉を睨んだままであったが、その目を盗んで泉の水を飲んだ。飲んでいるうちに体の蜜がはげ落ちて、虎は猿の姿に気づき、虎は猿にとびかかった。猿は命からがら逃げかえり、苦しい生活を続けていた。喉が渇いて仕方がなくなった猿は松の樹に駆けつけて松脂を体に塗り付けると、再び木の葉に寝転び体を木の葉で包むと、泉の側へ行くと、虎は泉の守番のようにその妖しい姿を見ると、木の葉が落ちるのを待った。猿は水を飲んだが、松脂でつけた木の葉は剥がれ落ちなかった。それを見ていた虎は人違いだと考えた。猿は虎の前を悠々と引き上げて行った。猿はこうしてまたその後も喉が渇いたら松脂で木の葉を体に付けて水を飲みに行った。それは、雨期が来て水があふれるようになるまで続いた。
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猿の食べ物探し
昔猿がお腹が空いてならずお粥をこさえようと思った。しかし、粉を買うお金がなく、仕方なく牝鶏の家を訪れた。牝鶏は愛想よく迎え入れながら、親切に粉を与えた。ほっとした猿は、明日の一時に自分の家に来るように伝え粉は時期に返すと言い残して出て行った。
それからしばらくして猿は狐の家に現れた。猿は狐に粉を貸してくれ、明日の二時には返すと言った。狐は猿に粉を貸した。猿はその足で、犬の家に向かい犬にも粉を借り明日の三時に返すと言って、最後に虎の家に行った。虎にも粉を借り明日の四時に返すと言って虎は猿に粉を貸した。猿はたくさんの粉を担いで帰り大きな鍋に粥をこさえた。食べても一向に粥は減らず、いい気持ちになって猿は床から高いところに休み場所をこしらえた。
次の日になると、猿は起きて粥を食べて、再び寝床に潜ると、仮病をして唸っていた。一時になると牝鶏が訪ねてきて、猿はひどい目に合ったと語り牝鶏は哀れに思い耳を傾けていた。
やがて二時になると狐が来て、牝鶏は驚いた。猿は怖いなら寝床の下にもぐるようにと言い牝鶏は寝床の下に身を潜めた。
狐にも牝鶏に対するように仮病を使うと、やがて三時になり犬が来た。狐は驚いたので猿は再び自分の寝床の下にもぐるように言い、狐は寝床に潜った。犬にも同様にふるまいやがて四時になり虎が来ると犬も寝床に潜り込んだ。虎が戸口へ入ってくると、猿は同様にふるまったが、虎は約束の粉を返すように怒鳴った。すると猿は素早く木から樹へと飛んで逃げた。寝床は虎の足踏みによって崩れ落ち、狐は牝鶏を見ると食べ、犬は狐を見ると食べ、虎は犬を見ると食べてしまった。虎は今日も猿を追い回している。
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バナナが猿の持ち物である理由
猿たちはバナナをみんな自分のものだと思っている。ブラジルでは子供たちがバナナを食べるときは「私は猿公だよ」という。
筆者がブラジルにいたときどんなに泣き叫んでいてもバナナさえ見せれば泣き止むほどにバナナがなにより大好きな子供がいた。彼もバナナを食べるときには、いつも、「私は、猿公が大好きだよ」と言っていた。ブラジルの子供はバナナが好きな人を見て猿と呼ぶだろう。それはどういうわけか。
昔、大地や河や山や天空が出来上がったばかりの頃、猿もたくさん棲んでいたが、バナナはただ一種類しかなかった。けれどもある園には、同じバナナがみっちりと生え茂っていた。ひょっこり葉陰から姿を現してきた侏儒(こびと)のようなお婆さんがバナナを嬉しそうに仰ぎ、バナナが一雨ごとに成長するのは何よりの楽しみだと頷いていた。お婆さんはこの園の主人だった。お婆さんはバナナが食べごろになると、猿の仲間で一番大きな猿をいつも呼んで、バナナの収穫を手伝ってもらうように言って報酬は半分の山分けとして与えると言い仕事を頼んだ。大猿は手と足と口とを一緒に動かしながら、バナナをもぎ取った。お婆さんがバナナの半分を求めると、大猿は出来の悪いバナナばかりを与えた。猿の分は皆綺麗なものばかりだった。彼は持ち帰ったバナナを暗いところへしまって置いた。
お婆さんは渋いやせ細ったバナナをかじると、黄色い歯をむき出して、怒り狂った。そして、夜通し眼を動かしながら、忌々しそうに舌打ちして、しきりと考え抜いていた。早朝起きたお婆さんは働き始めて、子供の蝋人形を作ると、自分の子供のように頭を撫でたりさすったりして喜んでいたが、やがて頭の上に平たい大籠を載せて取り立ての大バナナを入れておいた。大猿がやって来て、それを見るとそのバナナの出来の良さに一癖ありそうな顔をした。猿はバナナ売りの子供を見ればいつも突き倒してバナナをかっさらっていくが、大猿は機嫌がよく、笑いながら近寄って蝋人形に一本バナナをせがんだ。しかし蝋人形は何もしゃべらず、猿は声を少し張り上げて再びバナナをせがんだ。しかし蝋人形は黙ったままで、猿は声を上げてさらにバナナをよこせと怒鳴った。蝋人形は黙ったままで、猿は怒りとびかかって殴りつけた。すると手は蝋人形の体の中に食い込んで、動かなくなった。
猿はますます怒って、バナナをくれないともう一方の手で殴るといったが、蝋人形は黙ったままで、猿はもう一方の手で殴った。すると蝋人形の体の中に食い込んでしまった。
猿は更に怒り、バナナをくれないと足で蹴飛ばすといったが、蝋人形は黙ったままで、猿は片方の足でけりつけると、足は食い込んで動かなくなった。躍起になった猿はバナナをくれないともう一方の足でけるといったが、蝋人形は依然と黙ったままで、猿は残りの足でけり込むと、残りの足も蝋人形の体に食い込んで動かなくなった。
負けぬ気の猿はそれでもまた、バナナをくれないと体で体当たりをするといったが、蝋人形は黙ったまま動かなかったので猿は、自分の体を振り動かして、蝋人形の体にぶつけた。体は蝋人形に食い込んだ。猿は体を放せ、さもないと手下の猿を呼ぶといったが、人形は黙ったままだった。大猿は悲鳴をあげその声を聞きつけた猿たちは山や木の頂上、大地の穴や渓流から大猿は子猿の手を引いて、若猿は大猿の先に立って瞬く間に集まってきた。
苦しそうな大猿は蝋人形の中から聞こえてきた。大勢の猿は西に東に走ってうろうろしていた。この時名案が思い浮かんだ猿が出てきた。その猿は豆のように体が小さいため「豆ちび」と言われていた一番小さい猿だった。この猿の指図で、大猿や子猿は側に聳えていた大きい大木を登り始めて、見る間に大木は猿のピラミッドが出来て、猿の中で一番大声を立てる猿が頂上に登り立って、太陽の間近で双の手を振り上げて、太陽を仰ぎ、大猿を助けるように願った。大声が空に轟き、大地も揺れた。猿たちは声をそろえて一心に太陽にお願いした。
すると太陽は大声の猿の願いを聞いて下ってきた。すると太陽の篤い光で蝋人形は溶けて大猿の体が現れて、自由になった。大猿は躍り上がると、猿たちの叫びが起こった。
これを見てがっかりしたお婆さんは、大きな園と、たくさんなバナナを捨てて他の場所へ移り住んだ。そしてキャベツをこさえ始めた。後に残された園は猿のものとなり、バナナのご馳走を漁って嬉しい生活を送った。こうして猿はバナナを見ると「おや見事な猿公が見つかったぞ。これは俺の物だ」というようになった。
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猿に食われそうになった話
昔人々は木の実や胡桃を食べて生活していた。けれども、それもだんだんと減って行き、とうとう肉を食べなければならないようになった人々は、獣を見ると片っ端から焼肉をしていた。同じように尻尾があって目が二つあっても獣たちの肉は美味しいものもまずいものもあった。
牡牛の肉は見事で、羊の肉は見ただけで口が潤う程においしく、また蟻食いの肉も一度食べたら堪らなかった。いろんな獣たちの肉をさんざん味わった人がある日ふと猿の肉を食べてみようと思った。
猿はギターを弾いていて、男はギターを聞かせてほしいと言って猿に近づき、いきなり猿を捕まえようとした。驚いた猿は木の上に登りあがって逃げてしまった。こうして一度猿を取り逃がした男は面白いギターの音を聞けば、男は猿を捕まえようと焦っていた。次第に人間が恐ろしくなった猿は、ギターを隠して木陰に潜んでいた。しかし、木登りと音楽が好きな猿は我慢が出来なくなって、とある穴の奥深く出、こっそりとギターを弾いていた。猿は気まで浮いて油断して音楽が外まで響くまいと独り言を言っていた。男は、これを知って、そっと穴の口に身を忍ばせていた。猿は弾き飽きて穴から顔を出すと、男が居て猿は慌てて穴の深くに逃げ込んだ。猿は真っ青になって待ち構え、男も穴の入口で待ち受けていた。そのうちに喉が渇いて堪らなくなり男は小さな子供に見張りを頼み出て行った。猿はこれを見すまし、子供に猿踊りを見せてやると言って、子供も嬉しそうに見たがったため、子供に穴の入口へ寄って見下ろすようにおびき寄せると、双の手を取って子供の眼に投げつけた。眼をふさがれた子供は夢中になって擦り、その間に猿は身を躍らせて、高い樹の頂上で嘲った。ほどなくして男が帰って来たが、子供は穴の入口で小さくなっていた。男は穴の入口で待ち構えていたが、待ち続けて疲れて、そのうちに帰って行った。
こうして猿と男の仲は日に日に悪くなり、男が躍起になって、猿の尻を追うと、猿はかわして高い樹に逃げて行った。辛抱強い男は四六時中猿に気を取られていた。ある日、ふとしたことから猿を捕らえることができた。男は嬉しさのあまり猿を高くかざしながら、踊りまわったが、やがて箱に入れて帰って行った。家に帰りつくと、大鍋に水を入れて焚火の上に掛け、薪を集めるため男は出て行った。すると箱の中から猿が出し抜けに面白いギターを始め、焚火を見つめて焦っているような音をならしだした。子供たちは箱の周囲に集まって、眼をぎろぎろさせていた。猿は笑って面白い猿踊りを見せてあげると言うと子供たちもうなずいた。猿はこのままでは踊りはできないから、箱を開くように言うと子供たちは騒ぎながら箱を開いた。すると箱を抜けて猿は広間に飛び出るなり、ギターの音に合わせて、踊り出した。子供たちは手を叩き足踏みをして気を取られていた。すると猿は踊りながら、何かご馳走してくれと言うと子供たちは猿の好きなものを入れるように促した。猿は鍋の中に木片や空の椰子殻を入れると、猿は暑くて踊れないと言って、戸口の扉を開けて涼しくするように子供達に言った。子供たちは、すぐに戸口を開くと、ギターの音は、堪らないほど鳴り響いた。子供たちは夢中になって、一緒に踊り出した。猿は踊りながら戸口から出ていつの間にか高い樹の頂上へ上ってしまい、やがて見えなくなった。
程なくして男は、薪を抱えて帰って来た。子供たちは眼を合わせて黙り込んでいたが、大なべの中にある木片や椰子殻を猿と思った男は、猿の苦しみざまが見たかったと言いながら薪を積み、子供たちを呼んで、ご馳走を食べようとしたが、子供たちは食べようとしなかった。男は、不思議に思いながら、沸き立つ大鍋から、猿の肉と思って木片や椰子殻をすくいあげて食べようとした。男は猿ではないとわかると大鍋の中をかき回したが、猿の影もなかった。それからは猿汁をこさえようとは二度と思ったこともなかった。
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猿が尻尾が残っている理由
昔猿と、兎が出くわして約束をし、猿はこの世界の蝶を、兎はこの世界の蛇を皆退治することにした。無邪気な兎は日向に来ると眠ってしまっていた。猿が歩いていくと兎が長々と道端に寝そべっていた。猿は日頃から気障りに感じていた耳を見て引っ張ってやろうと忍び寄り、ちょうど蝶を取るように兎の耳を引っ張った。兎は飛び上がると猿が笑いながら立っていた。兎は恨んで猿を睨むと歩いて行った。兎の一番の仲良しは蟻食いだった。蟻食いは小さな獣がその名を聞くと震えるほどの強者で兎が復讐の頼みにしたのも蟻食いだった。猿が日向で昼寝をしていると、兎は見すまして蟻食いを呼んで両人は示し合わせて大石を押して猿の尻尾の上に落とした。猿は尻尾を引っ張ったが、尻尾は切れて猿は尻餅をついた。そこに現れた猫は尻尾をもっていなかったため、猿の尻尾をもって逃げ去った。そばでは兎が蟻食いと冷たい目つきで猿を見下ろして猿の尻尾を蛇と見間違えたと言って、猿が自分の耳を蝶と見間違えたことを諫めた。
猿は尻尾を失って涙を浮かべた。猿は尻尾を求めて猫を探した。すると猫は盗んだ尻尾を尻に当てて自分の恰好をこしらえていた。猿は猫に自分の尻尾を返してくれと頼むと猫は牝牛の牛乳をくれたらと答えた。猿は牝牛に会いに行き牛乳をくれと言ったところ、牝牛は草のご馳走をくれたら牛乳をあげてもいいとのことだった。猿は百姓を訪ねて、草のご馳走を貰えないかと聞くと、百姓は雨を降らせてくれたら草のご馳走をあげてもいいということだった。猿は雲の所を訪ねて雨を降らせてほしいと言った。すると雲は霧さえくれたら降らせてくれるということだった。猿は河の所を訪ね、霧を戴けないかと言うと、河は自分を養ってくれる新しい泉を見つけてくれたらあげてもいいと答えた。猿は険しい丘を登ってたくさんないわの間を探して、谷間の岩の間から小さな泉をようやく見つけた。猿は泉を拾い上げた。河はおいしそうに泉を食べると猿に霧を渡して、猿は霧を雲に渡すと雲は雨を猿に与え、百姓の所にもっていくと猿に草のご馳走をくれた。猿は草を牛のところにもっていくと、牛は牛乳を猿に与えた。猿は牛乳を猫の所にもっていくと猫は猿に尻尾を返してくれた。
猿はあまりの嬉しさにあたりかまわず蹴散らしたり、天に上る心持であった。それからは赤い尻を撫でながら尻尾を絶えず気にするようになった。今でも猿に尻尾があるというのでいつまでも面白そうに踊りまわっている。
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黒が白になった理由
私たちは黒は白に、白は黒にならないと聞かされている。筆者がかつてこのことを何気なく子守に話すと、彼女は驚いたように眼を見張って昔それが一度できたことがあり、なぜできたかは未だに誰も知れない。センホラの話は、聞かなかっただろう。と意味ありそうに言った。その話というのが以下の内容であった。
昔侏儒(こびと)のようなお婆さんが真っ黒い息子一人と暮らしていた。お婆さんはもともと他に三人の美しい乙女がいた。知覚の魔法城に住んでいた魔法使いは三人の乙女を妬ましく思い魔法の力で三人の乙女を魔法の袋の中へ閉じ込めた。魔法の袋は魔法の木で燃やすほかには開かないということであった。お婆さんは歎き悲しみ黒い息子に助けられて魔法の樹を探していた。黒い息子はお婆さんが悲しむのを見ていつかは魔法の樹が見つかるだろうと励ましていた。ある日、小川の傍らでお婆さんが水を汲んで大きな水甕を頭の上に乗せようとしていたところ子供の力では母親を助けることができず子供は藻掻いていた。そこに美しい三人の騎士が馬に乗って現れた。お婆さんは子供に頼んで助けを求めたが、子供が騎士に話すと、そんな暇はないと言って三人の騎士は去って行った。お婆さんはこれを見て怒っていた。三人の騎士は魔法城に向かっている最中で先に立って案内していくものは乙女を袋に閉じ込めた魔法使いだった。
三人の騎士は魔法城に入るととある部屋に案内された。魔法使いは黙ったまま三つの寝台を指さした。寝台にはそれぞれ蝋燭が枕元に光っていた。魔法使いは真夜中になるとこの三本の蝋燭を目印に忍び寄ってくる。今まで寝台に横たわった人々が魔法使いの魔力にかかったのはこの蝋燭を消すことに気が付かなかったからであった。三人の騎士は眼を光らせて頷きあうと蝋燭を吹き消した。真夜中、しばらくすると部屋の扉が開いて魔法使いが三人の騎士を魔法の袋に閉じ込めようと入って来て寝台へ近付くと、いつの間にか寝台は空になっていた。魔法使いは一杯食わされたと歯噛みをして叫んだ。魔法城を抜け出した騎士たちは馬に乗り来た道を駆け出したが、やがて曲がり角の小店の前で馬をとめて店の親切な魔法使いから灰を一ビンテム、塩を一ビンテム、針を一ビンテムだけ買い取った。それからあの小さなお婆さんの家の近くに着いた。今だに怒っていたお婆さんは三人の姿をみると石を取って続けざまに投げた。三人の騎士はそれを見て城の魔法使いと思い一人の騎士は一ビンテムの灰をお婆さんめがけて投げつけた。灰はたちまち地を蔽い空に巻き上がり辺りが暗くなった。お婆さんは闇の中を駆けながら石を投げていた。するとさらにもう一人の騎士が一ビンテムの塩をお婆さんに投げつけた。するとお婆さんの眼の前には荒潮が唸り海が流れ出した。海のかなたを見ると三人の騎士は一散に駆けていた。お婆さんは泡立つ水をものともせず石を投げながら騎士の後を追っかけた。すると三人目の騎士が一ビンテムの針をお婆さんめがけて投げつけた。針は大地に振りたちまち棘(いばら)の籬(まがき)が大地から出てきてお婆さんの行く手を抑えていた。お婆さんは棘の籬を突き抜けようと叫んで藻掻いていた。しかしこの棘の籬こそお婆さんと黒ん坊の子供が探していた魔法の樹だった。早くもそれと知った黒ん坊の子供は枝を伐り集めると高く積み、お婆さんは三人の乙女が閉じ込められた魔法の袋を持ってくると、黒ん坊の子供とお婆さんは手を併せてそれを魔法の樹の上に置き、魔法の樹に火をつけた。すると出し抜けに恐ろしい物音が起こり、三つの魔法の袋は開いて乙女たちの姿が現れた。乙女たちは不思議にもノッサ・センホラの奇蹟で袋の中で生きていた。二人は乙女たちのそばへ駆け寄り、お婆さんは若い昔に立ち返ったように喜んで泣いて笑っていた。そして黒ん坊の子供の手柄だと誉めると黒ん坊の子供の顔が白く輝き出した。
それから間もなく三人の騎士と乙女の間に結婚のお祝いが行われ、お婆さんはいつも笑っていた。黒ん坊だった子供も今では世界一の偉い騎士となった。
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鳩が人慣れっこくなった理由
昔ある男に三人の子供があった。三人の子供が大きくなって働きに出る年になると、ある日男は三人を呼び寄せて大きな西瓜(すいか)を渡して餞別とし、欲しいと思ったら水の辺で切るように言い聞かせた。
三本の道があり遥か彼方の雲間に延びていた。三人の兄弟は西瓜を抱えながら、三本の道をたどって、別の方角へ向かって、旅に登った。父に別れを告げて立ち上がったのは、長男であった。長男は西瓜を眺めると父の忠告を聞かずその場で西瓜を切った。すると天女のような乙女が飛び出して、水と牛乳を強請って現れた。男はこれを聞いて驚き、あたりを探したが、ここは広い砂原の真ん中で一滴の水もなければ牛乳もなかった。男は気を揉んで探し回ったが、探しているうちに乙女は死んでしまった。
長男が出発してしばらくたち、次男が出発した。長男とは別の道をたどり、ほどなく嶮しい丘に差し掛かった。激しい坂道では谷間は遠くて水音もなかった。喉が渇き、辛抱強く登り続けていた子供は堪らなくなり西瓜の重荷に耐え切れず父の忠告を無視して西瓜を切った。すると天女のような乙女が飛び出してきて水と牛乳を求めた。男は慌てて辺りを探したが探しているうちに乙女は死んでしまった。
それから暫くたち、三男が出発した。彼は大西瓜を担ぎながら出て行った。やがて嶮しい嶮しい坂道に差し掛かり太陽は暑く照らしていた。若者は山道を登り、時々西瓜を恨めしそうに眺めて食べてしまおうか考えたが、父の忠告を思い出し美しい泉の側へ行って食べることにして堪えた。嶮しい岩道を登りきると、泉を見るのを楽しみに下り坂を降って行った山の麓町の真ん中に見事な泉があって冷たくて甘い清水が湧いていた。麓町までたどり着いた三男は眼を開くと泉があり駆け寄ると水を飲んで一息をつき、西瓜を切った。すると花のような乙女が飛び出てきた。そして水と牛乳を求めた。若者は水を掬って乙女に飲ませ、乙女を樹々の枝の葉陰に忍ばせ、食べ物を探しに出て行った。
程なく黒ん坊の召使が、大きな水甕を頭にのせて水を汲みに来た。葉陰に身を潜めていた乙女は葉の間から泉を除いた。すると天女のような顔が水面に映った。水を汲もうと顔を水面にやった召使は水面に映った乙女の顔を見て、自分の黒いほっぺを撫でてにやりと笑いながら、自分が綺麗になりお姫様になったと思って水甕を大地に向かって投げ、誇り顔で帰って行った。それを見たおかみさんは荒々しく罵ると再び水甕を持たせて追いやった。泉へ戻った召使は恨めしそうに水面を見ると美しい乙女の笑い顔が水面に映った。召使はおかしいと思って不意に上を見上げると木の葉陰には乙女が身を潜めていた。召使は自分が怒られたことをその乙女のせいにして怒りポケットから一本の針を取り出して、気によじ登ると乙女の体に差し込んだ。乙女の姿は煙のように消えてそこには、一羽の鳩が座っていた。
やがて三男の若者は食べ物を抱えて帰ってきた。召使は驚いてそのまま葉陰に身を隠していた。泉のそばへ歩み寄った若者は、微笑みながら見上げると樹の間には、美しい乙女はいなく、どす黒い黒ん坊が大きな尻をどっかと木の枝に据えて座り込んでいた。若者は召使を乙女と思いあまりのことに自分の留守にどうしたのかと尋ねた。召使は太陽が自分の顔を焼いたと答え暑いところから出て行けばまた時期に下の顔や姿に返ると答えた。若者はその言葉を信じて、黒ん坊の召使と結婚して、涼しいところへ引っ越しさえすれば花のような姿は時期に見れると思い引っ越した。しかし召使の顔は黒いままであった。
幾年か歳月がたった頃若者は大金持ちとなって、大きい立派な宮殿のような館に住んでいた。館の周囲には花園があって、小鳥たちの住処となっていた。華やかなところに住んでいたけれども若者は黒ん坊のお嫁さんを見ると顔が曇り眼には涙さえ浮かんでいた。
若者は悲しくてその花園に出ると、ただぶらぶらと歩いた。そして泉で見た美しい乙女のことばかり考えていた。若者が花園に出ると、待ち受けるようにして飛んでくる一羽の鳩があった。鳩は若者に合わせて動き、いつもうるさいほどに若者の頭の上を飛び回っていた。ある日ふと病に罹った黒ん坊のお嫁さんは、しきりに鳩料理を欲しがった。若者は下僕に日頃付きまとう鳩を捕らえるように言って鳩のご馳走を造らせた。黒ん坊のお嫁さんは鳩の胸に黒い斑点を見つけて鳩の胸をこすって斑点を消そうとしたが、それは一本の針だった。黒ん坊のお嫁さんは夫を呼ぶと針を引き抜いた。すると、小さな鳩はあの乙女の姿に変わった。若者は嬉しさと懐かしさに胸を躍らせて、乙女に抱き着いた。黒ん坊のお嫁さんはこれを見て石のように突っ立ったまま、黒い額からは冷たい汗が浮き上がってきた。黒ん坊のお嫁さんは自分が悪かったと白状し今までだました自分の罪を許してくださいと叫び続けて、黒い顔をさらに黒くしてその場に死んでしまった。乙女は若者の顔を眺めて微笑んでいた。若者はいつまでもその美しい顔に見とれていた。二人はすぐに結婚して、幸せになったが、美しいお嫁さんは自分が鳩であったことを忘れなかった。その頃まで鳩たちは深い山の森影に住まい、野に生まれ、雨露に育ち、野山に一生を終わるのだったが、この乙女はそれが可哀想で仕方がなかった。それで館の美しい花園に小さな小屋を造っておいた。ある日花園に迷い込んできた一羽の鳩があり、鳩の中でも大胆であった彼は、そこに鳥の住処があるのを見て大勢の家族を連れてきてその小屋へ引っ越してきた。この話を聞いて他の鳩も引っ越してきた。しかし臆病な鳩たちは花園の口まで来ると、もじもじとして入ると大きな悪魔が出てくるのではないかと噂をしあっていた。大胆な鳩たちは住み心地良い小屋に暮らすことになり、楽しい日々を送っていた。臆病な鳩たちもやっと安心な気持ちが流れ、みな申し合わせたように小屋に入って行った。大勢の鳩たちはこうして思いもしなかった楽しい生活が始まった。人懐っこくなった鳩たちは森に住まった昔を忘れたように人里の近くに生活するようになった。鳩たちはどうして人馴染みとなったかは知らなかった。けれどお嫁さんは可愛い子供が生まれると膝の上に抱き上げてはよくこの物語を話して聞かせた。子供たちがやがて大きくなって若者となって大人となっても、また自分の子供に物語を利かせた。こうして、ブラジルではお母さんたちが夜には子供たちにこの鳩の物語をしている。
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海が唸る理由
昔美しい大きな王城に可愛らしい小さなお姫様がいた。館の周囲は、綺麗な園で、時の移ろうのにつれて花が咲き乱れた。遊ぶことが好きな小さなお姫様は、そっと足を忍ばせて館を抜けて園の片隅の海辺で、日の暮れるのを忘れて遊んでいた。孤独な小さなお姫様には、じっと海辺に座って次第に変わって行く海原を眺めるのが慰みで、心遊びであった。波はまるで自分の名前を呼ぶように響いていた。お姫様の名前はディオニジアと言った。
今日も磯辺に巣w理波を眺めていた小さなお姫様はため息をつきながら寂しがりながら友達が欲しい、何か生き物でも友達が欲しいと独り言を言っていた。お姫様は渚へ歩んで行き、波が打ち寄せると一匹の海蛇が現れてきた。美しい絵本で海蛇を見ていたお姫様は、嬉しそうに双の手を差し出して、遊んでほしいと言った。人懐っこい海蛇はラビスメナと言った。海蛇はお姫様と遊ぶために波に乗ってきたと答えた。こうして二人は一緒に遊ぶようになった。海は、いつ見ても人の心を晴れ晴れしく浮き立たせていた。海を見ているうちは誰でも夢の世界へいざなった。海が大好きなお姫様は、付き人の眼を盗んでは、海へかけて行った。そして海蛇がやって来て、遊び始めた。もし誰かが磯辺の砂を踏む足音を立てたならラビスメナは深い海の底に帰って行った。お姫様は日増しにラビスメナが好きになった。お姫様の他にラビスメナの姿を見たものはいなかった。
小さなお姫様は十六歳の乙女盛りになった。お姫様は海蛇をお忘れになることはなかった。ある静まった日、お姫様の心はすっきりとして月のようであった。一緒に歩いていた海蛇は悲しそうにしてディオニジアを見るたびに年を取った気がすると言って時が来たことを告げて深い海の中へ沈んでいった。ディオニジアはラビスメナと別れたことを嘆いた。
丁度この時、隣国の妃が臨終の際に宝石のちりばめた指輪を王様に渡して、王様が再び結婚するならば指はの丁度会う姫君を妃とするようにと願い息絶えた。妃をなくした王様は新しい妃を探した。たくさんな宮廷を訪ねてお姫様の指に指輪をはめてみた。しかし指輪の合う姫様は見つからなかった。とうとう王様はディオニジアの宮廷を訪ねてきた。若い凛々しい王子ばかりを描いていたディオニジア姫は、年老いた王様を見ると錯乱した。王様はディオニジアの指に指はを着けるとそれはぴったりとはまってしまった。真っ青になったお姫様は父にすがって結婚したくないと言ったが、父は王様がお金持ちであるために結婚を奨めた。年老いた王様と結婚しなければならないと思うとディオニジアの眼からは熱い涙が流れていた。それを差し置いて父は結婚の準備を進めて一人微笑んでいた。ディオニジアは海辺へ行って泣いた。ディオニジアはラビスメナを思い出し、呼んでみた。するとラビスメナが現れてディオニジアは今まで起きた出来事を話した。ラビスメナは姫を慰めるようにして、父に王様が美しい野原と草花の模様の着物を下さらなければ結婚をしないというように伝えた。ラビスメナは伝え終わると海の底に降って行った。
ディオニジアは嬉しそうに父の部屋に駆け込んで王様が野原と草花の模様の着物をくれないと妃にならないと言った。王様はこれを聞くと家来に探させて野原と草花模様の着物を探し、やっとのことで見つけディオニジアの手元へ送り届けた。ディオニジアはある日宮殿を抜け出して海辺へ走って行った。そしてラビスメナを呼び話した。ラビスメナは海と魚模様の着物をくれないと結婚しないというように教えた。姫は館へ戻ると王様に第二の難題を吹きかけた。そして家来たちはたくさんなお金を使って探し歩きとうとう難題の着物を手に入れた。ディオニジアは再び海辺へ駆けつけてラビスメナを呼んだ。ラビスメナは今度は最後の望みとして天空と空中の星模様の着物を求めるように伝えた。さすがの王様も顔色をなくしたが国中を探して難題の着物を探し当てた。最後の綱も切れてしまい、ディオニジアは海辺へかけて行った。ラビスメナは名前を呼ばれて現れると、三つの着物をもってここへ来るように言った。姫は館へ急ぐと帰ってきた。賢いラビスメナは王様が難題の着物を集めているときに舟を造っていたのであった。ラビスメナは世界の果てに美しい凛々しい王子様がいて船は姫様を王子様の国に誘うためのものだと告げた。ディオニジアはラビスメナの親切にどうしたらお礼ができるのだろうと驚いた。ラビスメナは自分が魔法にかけられた姫で世界で一番幸福な乙女が、一番幸福な時に三度自分の名を呼んでくれるまでは海蛇の姿なのだと明かした。そしてディオニジアが美しい王子様と結婚する時に自分の名前を三度呼ぶようにと頼んだ。ディオニジアは涙を流しラビスメナと三度約束した。ラビスメナは悲しみに耐え切れないように、沈んでいった。姫様の乗った小舟は進んでとある美しい島へ流れ着いた。ディオニジアは着物を入れた鞄を掲げて船から飛び出すと船はひとりでに岸辺から離れて波に揺られて消えて行った。ディオニジアは物悲しくなったが、仕方なく歩き出して家から家へと食べ物を貰って歩いた。ほどなくして王城の前に出たので姫は門番に働かせてほしいと言った。門番は鶏番の召使が一人欲しいと言って姫を雇うことにした。
やがて大祭日が来て町中がにぎわった。王城は静まって鶏番の召使となっていた姫だけとなった。一人取り残された姫は自分も行こうと思い野原と花模様の着物を体に付け町へ出た。その姿は美しく鶏番の召使とはだれも思えなかった。町では大舞踏会がひらかれていた。美しい姫の姿が現れると皆ぼんやりと眺めていた。美しい姫の姿に心を吸い取られていた一人の若者があった。それはこの国の王子様だった。やがて祭りが終わりに近づくと人々は次第に帰り始めて、ディオニジア姫も人の群れの中に姿を消していった。鶏小屋の前では召使がじっと目も動かさないで番をしていた。
祭りは二日目となり、人々はますます祭り気分となって、祭り場所へと出かけて行った。ディオニジア姫は人々がすっかり出ていってしまってから、海と魚の晴れ着を身に付けて程なくにぎやかな祭りの場所に現れた。年より若者も姫の姿を見ると集まって騒ぎ始めた。祭りが終わりに近づき人々が帰り始めると姫はどことなく消え失せてしまった。王城へ帰った王子は不思議そうに祭りに出ていた乙女が鶏番の召使に瓜二つと思うと母に言うとそんな婢が美しい着物を持っているはずがないと言った。けれども王子は侍者を呼んで調べるように言った。召使たちはディオニジア姫に自分たちが帰るまで鶏番をしているように言いつけると、出て行った。王子は深いため息をついて祭りに出ていた乙女を探し出すと言ってつぶやいていた。
祭りも三日目になり、ディオニジア姫は空と星の着物で王子はディオニジアを見つけると近づいて行って、美しい宝石をディオニジアに渡した。やがて王子は帰って行った。王子は美味しいご馳走に見向きもせずに痩せて青ざめて溜息が増えて行った。侍者たちは頭をひねって料理を作っては進めていた。晴れやかな王城には重苦しい気がみなぎって人々の顔に心配そうな色が現れていた。すると今まで黙っていた鶏番の召使が王子に料理を奨めようと申し出た。ディオニジアは粥をこさえて皿の底に宝石を入れていた。粥が王子の前に運ばれると、眼を力なく開いた王子は光る宝石に気づき、誰が作ったのか尋ねると、側にいた母親は王子の機嫌を取るように鶏番の婢が作ったと答えた。王子の眼は輝き鶏番の乙女を呼ぶように頼んだ。
華やかな結婚式が行われたのは次の日だった。ディオニジアはこの世で一番幸福な乙女であった。式が終わって喜びに溢れていたディオニジア姫の眼が曇ってラビスメナとの約束を忘れたことに気が付いた。ラビスメナは自分が姫に戻る機会をにがしてしまい、ディオニジアのために呪われた海蛇の姿で海の底で暮らさなければならなかった。美しい姫に戻り王子様と結婚する望みも空頼みとなり、ラビスメナは海の底の暗いところで今でも波が渚に打ち砕けるときディオニジアの名前を呼ぶ声が聞こえる。心から尽くした人から見捨てられ悲しい運命に泣き続けなければならない海蛇は今も叫び続けているのであった。
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ブラジルの甲虫の甲羅が美しい理由
ブラジルでは甲虫は綺麗な堅い甲羅をもっていて宝石のように針でつなぎ合わせて首飾りをこさえる。美しい甲虫も昔は褐色の甲羅だった。ブラジルの甲虫はどうしてこんな甲羅を持つようになったのか。
ある日小さな褐色の甲虫が壁の下を歩いていると、壁穴から飛び出して灰色の鼠がそれを見つけてさんざん嘲った。
灰色の大鼠は素早く壁を走り飛んできた。甲虫はその間に数歩這っているだけだった。鼠は自分のように走りたくはないかというと甲虫はつつましやかに鼠の脚の早い事をほめた。日頃から甲虫の母は口癖のように人には丁寧にして自分の長所を誇らないように言っていた。
小さな褐色の甲虫は誇ることなく、壁の下を伝って這い出した。マンゴーの樹の枝に止まって話を聞いていた黄金緑色の鸚鵡は灰色の大鼠を捕まえて、甲虫と競争をして勝った方に鸚鵡の隣の家の裁縫屋の鳥の美しい着物を上げるといった。これを聞くと大鼠は褒美の着物を体に付けているように自分の両脇を覗きながら虎のような筋のついた黄色いのがいいといった。甲虫はきらきらと光った美しい色ならば何でもいいといった。鸚鵡は二人を顧みて決勝点は崖の頂上の椰子の樹として、出発の合図を下すと、一足先に椰子の樹へ飛んで行って、二人の来るのを待ち構えていた。
灰色の鼠は走ってかけているうちに胸が苦しくなり息が荒くなった。大鼠は甲虫に負けるはずがないと思いゆるゆると走って行った。しかし心臓は走るように急き立てていた。鼠は胸のささやきに耳を傾けて走らなければならないと思い再びかけ始めた。走っているうちに、決勝点の椰子の樹の下へ転げ込んで来ると黄色緑の鸚鵡の側には甲虫が控えていた。鼠は驚きながら、どうしてこんなに早いのかと尋ねた。甲虫は羽を広げるとこれで飛んできたといった。鼠の胸は口惜しさで再び騒ぎ出した。鸚鵡は慰めるように今後は人の姿ばかりを見てひとり決めしないように言った。こうして今日でもブラジルでは花、鳥、獣、虫がみな美しい着物を着ているが、鼠は灰色の着物を着ている。鸚鵡はやがて甲虫の方を振り向きどんな色の着物がいいか尋ねると、甲虫は鸚鵡の上の黄金緑の椰子の樹、マンゴー樹の下のマンゴー、遥か彼方の緑の丘を染めている太陽を眺めていき、黄金緑の着物が欲しいといった。
こうしてブラジルでは、甲虫はみな黄金緑の着物を着るようになった。またいつまでもブラジルの甲虫は大鼠を負かした甲虫のような美しい着物を着て威張り散らしている。ある時小さな甲虫が、黄金緑の着物では満足できなくなり、青い宝石のような海原を見て青い着物が欲しいと漏らした。それを聞いた母親は早速裁縫屋の住んでいる鸚鵡の所へ娘を連れて行き、頼んだ。鸚鵡は変えることはできるが、望みをかなえようとすれば無理を忍ばなければならないといった。甲虫はどんな無理でもすると言った。青色の着物は出来上がり甲虫は嬉しさに躍り上がった。やがて自分の身に纏うと今まで堅い着物を着ていた甲虫にはその着物が気持ち悪いほど薄くやわらかで今でも青甲虫の甲羅は薄く柔らかいため、宝石商は他のに比べて骨が折れると言っている。初めて青い着物を付けた小さな甲虫はそれから大きくならないようになった。今日でも青い甲虫は黄金緑の甲羅に比べると小さいからだをしている。ブラジル人が旗をこさえるときは四角な旗地を緑甲虫の色に塗り、ひし形には甲虫の背の黄金色の光のように黄金を塗り、ひし形の中に丸い円を描き、それは地球を表し青甲虫の甲羅のように青く塗り、その円には白い帯を各。白い帯にかかれたブラジルの標語は「順序を履みて、徐ろに進め」と書いてある。
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