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ミクロネシアの神話伝説
目次
- 天地創造(その一)
- 天地創造(その二)
- 天地創造(その三)
- 日月神話
- 人類の起源
- 死の由来(その一)
- 死の由来(その二)
- 火の起源(その一)
- 火の起源(その二)
- 洪水神話
- 悪戯好きの神
神名・人名リスト
| 名称 | 出現箇所 | 説明 |
| アレオプ・エナプ(Areop-Enap) | 1 | 貝の中で蝸牛やじむしによって世界を創造した蜘蛛の神。 |
| ロア(Loa) | 2 | 海に暗礁、砂、樹、島を見せて周囲の島を作った神。 |
| エラファズ(Yelafaz) | 3 | 天空神、女に砂を与えてその砂を海にまき散らし大地ができた。 |
| タブエリック(Tabuerik) | 3 | 鳥に変じて混沌の世界の上を飛んだ。 |
| リギ(Rigi) | 3 | 蝶。大地と海との上を飛んでこの二つを分けた。 |
| ナ・レアウ(Na-Reau) | 4 | 太陽と月と海を産んだ男女を造った神。人間が増えることを好まない。 |
| デ・バボウ(De-Babou) | 4 | ナ・レアウが産んだ男。太陽と月と海の生みの親 |
| デ・アイ(De-Ai) | 4 | ナ・レアウが産んだ女。太陽と月と海の生みの親 |
| リゴブンド(Ligobund) | 5 | 三人の人類の祖先となる子を産んだ神 |
| ルク(Luk) | 5 | リゴアププの父。大地を造ってそこに樹を植えた。 オロファットの弟。 |
| リゴアププ(Ligoapup) | 5,11 | ルクの娘。父の作った大地で喉が渇き樹の洞にたまった水を飲んで、その中の小さな動物を共に飲んで、一人の女を生む。 オロファットの妹 |
| ナレウア(Nareua) | 5 | 樹に火をつけて火花と灰から人間たちを造った。人間たちは世界の諸地方に分かれ住ませた。 |
| オバガット(Obagat) | 6 | 人間は不死であるべきと考えた神。息子に不死の水を取りに行かせるが、水鶏に邪魔され、人間は死ぬようになる。 |
| ミリアル | 7 | 子供に自分が死んだら七日間地に埋めて掘り出すように頼んだ女。息子は果実を食べて七日を過ぎてしまう。 |
| アレオプ・イット・エオニン | 8 | 若い蜘蛛という意味の名。ダバゲという亀の吹出物から生まれた。天上界へ登り稲妻から火を貰って、雷の腕をねじ折り人間界に火を持って帰る。 |
| ダバゲ | 8 | 吹出物からアレオプ・イット・エオニンが生まれる。 |
| エ・カイニル | 9 | 火を起こした女。 |
| キチミル | 10 | 『貪食』という神の子でマギギの夫。鼠に化けた父を殺してしまい、洪水が起こる。 |
| マギギ | 10 | 『貪食』という神の子でキチミルの妻。父を殺したキチミルに助言をし、また暴風雨が来ることを予言した。 |
| ルケ・ラング | 11 | 最高神。オロファット、ルク、リゴアププの生みの親。 |
| アヌラップ | 11 | ルクに言われて、オロファットを殺そうとした神。 |
| オロファット | 11 | 非常に利口で悪戯好きの神。臼に化けたり、蟻に化けたりする。 |
| サメンコアネル | 11 | オロファットを殺す手段は思い浮かばないと言った神。 |
天地創造(その一)
太初には、天も地もなかった。ある物は、果てしなく広がった海と、アレオプ・エナプ(Areop-Enap)という蜘蛛だけであった。蜘蛛は大海原に漂っていた。ある日蜘蛛は、非常に大きな貝を見つけた。蜘蛛はそれを取り上げて、「どこかに口がありそうだが、あったら中に入り込んでやるが」と四方八方から眺めてみたが、どこにも口が開いていなかった。彼は貝をたたいてみた。すると空洞のような響きを立てたので、「とにかく中には何も入っていない」と独り言を言った。
蜘蛛は、どうにかして口を開けさせたいと思って、しきりに呪文を唱えていると、やっと少し蓋が開いた。蜘蛛はすかさず貝の中に潜り込んだが、蓋が少ししか開いていないので、立ち上がることもできなかった。
蜘蛛は貝の中を根気よく這いまわっているうちに、一匹の蝸牛(かたつむり)を見つけ出した。彼は、蝸牛に元気をつけてやるために、それを脇の下に入れて、三日の間眠り続けた。それからまた、あちらこちらと探しまわっていると、さらに大きな蝸牛を見つけた。蜘蛛はまたそれを脇の下に入れて、三日の間眠った。目が覚めると、小さい方の蝸牛に向かって、「どうも貝の天井が低くて困る。せめて座れるくらい天井を押し上げてもらいたいが、お前にそれができるか」と尋ねた。小さい蝸牛は「できます」と答えて、少し天井を押し上げた。蜘蛛はお礼を言って、その蝸牛を貝の西の方に据え付けて、それを月に変えた。月が現れたので、貝の中が少し明るくなった。蜘蛛は月の光で一匹の大きなじむしを見つけた。彼はじむしに向かって、「お前は、今よりも一層高く天井を押し上げる
事ができるか」と尋ねると、虫は、「できます」と答えて、天井を押し上げ始めた。天井は次第に高くなったがあまり骨が折れるので、じむしの体から汗がどんどん流れ出た。蜘蛛はその汗を集めて海をこしらえた。それと同時に押し上げられた貝の上蓋が天空となり、下の蓋が大地となった。蜘蛛は大きな方の蝸牛を東の方に据えつけて、太陽に変えた。天地、日月、海などはこうしてできた。(ナウリ島)
解釈
ここでは蜘蛛のアレオプ・エナプがあらゆるものを創造したとある。この話の内容からすると、この島が世界の中で世界を作ろうとしたような、鏡写しのような印象を受ける。蜘蛛がいつ生まれたのかという点で疑問は多いが、虫が生まれたのはおそらくレメクがカインの罪が7倍ならレメクのためなら七十七倍と言ったことでパンドラは箱を開き、そこからトンボとセミがレメクによって、蜂と蝶がパンドラによって、と言う風に生まれていると考えられるのであるが、そこから、箱の中身をもとに戻そうと蜘蛛も生まれたのかもしれない。その後、すなわち全被造物は神からつくられており、その世界を映し出す貝があり、これによって島を形成したと考えられる。ただし、月と太陽に関しては少し吟味が必要かもしれない。月と太陽は水に落ちて複数存在するようになったはずであるが、このうちの一つなのか、単に誤りであるか、定かではない。じむしの汗が海となったというのも少し飛躍が見られるので、島の形成についての話としてとらえた方がいいかもしれない。ただ、天井を支えたという小さい蝸牛、じむしについてはエノク書の天井を支える四つの場所との関連を思い浮かべる。また、この貝と言うのは実はパンドラの箱ではないだろうか、という疑問もある。
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天地創造(その二)
世界の初めには、海だけだった。海の南に暗礁があり、海の北に沼があった。ロア(Loa)とう神が、海に向かって、「汝の暗礁をみよ」と言った。するとたちまち暗礁が海の面に浮かび出て陸となった。ロアがさらに、「汝の砂を見よ」と言うと、陸はすぐに砂に覆われた。「汝の樹を見よ」ロアがこういうと、たちまち陸地にいろいろな樹が生えた。ロアはさらに、「汝の島を見よ」と叫ぶと、たちまち多くの島が現れた。そしてその中の海鷗(かもめ)が舞い上がって、大地の上に大空を広げた。(マーシャル群島)
解釈
この話はロアという神が海に様々なものを見せることで島を作っている。この話は特にこのミクロネシアが鏡のような役割をしていることを示唆しているようである。海に暗礁、砂、樹、島を海に見せることで様々な島ができたようである。海鷗はそのあと大空を広げたとあり、この海はひょっとしたら、空のはずれにあったのだろうか。もしくは、大空の中に大空を作ったのかもしれない。北アメリカの神話では海鷗は小さい箱の中に火の光を入れて盗まれないようにしていたとある。これは、シベリアの創造主が鴉となって食べた太陽をその後ポリネシアで保管していたのかもしれない。この鷗が空に舞い上がった時に太陽は再び上がったのだろうか。もしそうだとしたら、フェニックスはその時に生まれたのかもしれない。
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天地創造(その三)
太初一本の大きな樹が、逆しまに生えていた。その樹の根は大空の中に拡がっているし、その枝は海原に拡がっていた。この世界樹の枝の内に、一人の女が生まれ出た。と、エラファズ(Yelafaz)という天空神が一握りの砂を女に与えて、「これをまき散らすがいい」と言った。女が海の面に砂をまき散らすと、それがたちまち変じて大地となった。(ヤップ島)
※他の神話によると、天がまだ大地に接し、大地がまだ海と別れなかった頃、タブエリック(Tabuerik)と言う神が鳥に変じて、この混沌たる世界の上を翔り、それからリギ(Rigi)という蝶が大地と海との上を飛んで、この二つを分かち、さらに他の神々が点を大地と分かって、上に押し上げたという
解釈
天空神としてあらわれた、エラファズは、バビロンのアヌ神だろうか、もっと上位であれば、ラファエルと真の神の間のようなところをそう呼んだのかもしれない。また、鳥に姿を変じたタブエリックはひょっとすると、シベリアの創造主のことかもしれない。それがすなわち鴉で白く、それが黒くなり、太陽を食べ、水へ落ち、鷗となったのかもしれない。そして、始めてみるのは蝶の神リギである。この蝶は海と大陸を分けたとある。すなわち、水平線、地平線、そして海陸線とでもいうか、三つの分割があったということが理解できる。海と陸は高度で言うと、同等の、すなわち平行線上にあるゆえに、これは二次元的に分割される。空に関しては上位下位の差がある。蝶はどのように海と陸を分けたかと言うに、おそらく、まったく真空の内にまっすぐ進むうちに、それは直線ではなく曲線を描くように緩やかに曲がって進む。これは真空でも客体としての性質のある空間と考えられる。それゆえに丸みを、つまり一つになろうとする性質によって曲線となるのであろう。そして、それがゆくゆくは地によって形づけられるような場所があり、そこが陸となる。この方法は第三の日の下の水が一か所に集まることと同義なのか、もしくはそれとは別なのか、もしかしたら、逆に地が一か所に集まろうとしたのかもしれない。(この方が分け方としてはつじつまが合う)しかし、それは同時だったかもしれない。つまり、蝶は大地ができる際の客体のうねりが、パンドラの箱から出てきた物によって虫となったのかもしれない。また、この蝶はイビルモスと関係があるのだろうか。この辺りは吟味の余地がありそうだ。そして、一本の大きな樹が空から海に向かって生えていたとある。これに関しては、ガオケレナを思い起こす。しかし、ガオケレナは生命の樹なのか、ナーガルジュナ、つまり龍血樹のことなのか。暴風の場所とも近いのかもしれない。
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日月神話
大昔、ナ・レアウ(Na-Reau)が、一人の男と一人の女を造った後で、彼らに向かって、「私は、お前たちをこの大地に留めておくから、よく大地の番をするがいい。が、お前たちは、決して子供を産んではいけないよ。私は人間が増えるのを好まないのだ。もし私の命令に背いたら、ひどい罰を与えるからそう思うがいい」と言って天界に去った。
二人の人間(それはデ・バボウ(De-Babou)と言う男と、デ・アイ(De-Ai)という女であった)は、神様の命令に背いて、三人の子を産んだ。すると、ナ・レアウの召使である一匹の鰻が、早くもそれを見つけて、ナ・レアウに、「人間どもはあなたの命令に背いて、三人までも子を産んでいます」と告げ知らせた。これを聞くと、ナ・レアウは大変怒って、大きな棒を手にして、二人の男女を留めて置いた島に降って来た。二人は神様の厳かな姿を見ると、その言葉に背いた恐ろしさの余り、大地に座り込んで「どうかお許しください。命令を破った罪は幾重にもお詫びします。でも生まれた子供は、私たちの生活に役立ちます。大洋は光を与えてくれます。そのおかげで私たちは物を見ることができます。太陽が沈むと、月がその代わりに現れて、光を与えます。それから海は、私たちに沢山の魚を与えて、食物に不自由なくしてくれるのです」と言った。ナ・レアウは、二人の言葉を聞くと、心の中で「なるほど、二人の言うことは本当だ。許してやることにしよう」と考えた。そこで、「よろしい。お前たちのしたことは悪くはなかった。許してやることにしよう」と言って、そのまま天界に帰って行った。こうして太陽や月や海が、世界にあるようになったのであった。(ギルバート群島)
大昔二人の神が、手斧で大きな石を削って、太陽と月を造って、天空に投げた。(ペリリュー島)
解釈
太陽と月の生みの親が人間だったとある。ナ・レアウは人間を作ったが人間が増えるのが嫌いとある。ここには、エロヒームが産めよ増えよと人間に言ったことに対する反論があるようである。すなわち第五の日動物が増えたことに関して、それがよくないとする見方もあり、人間に至って、再び産めよ増えよと言うことが、おそらくは不要なものを産むことになりかねないゆえに、ナ・レアウは人間が増えることが嫌いだったのだと思われる。しかし、アブラハムに関してはこの神も肯定したに違いない。と言うのも、太陽と月と海はよい物としているためである。しかし、ミクロネシア周辺は確かに二次的な創造と考えられる話が多い。このナ・レアウは人間が増えるのが嫌いという点で、少々恐ろしいゆえに世界の中の世界によって全体から分離されているようにも感じる。また、(注二)にこの男女が太陽、月、海を産んだことが伊弉諾(いざなぎ)伊弉冉(いざなみ)が天照大神、月読命、素戔嗚尊を産んだことと似ていると書いてある。
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人類の起源
ミクロネシアにはあまり念の入った人類創生神話がない。皆簡単なものばかり。
リゴブンド(Ligobund)という神が空から大地に降ってきて、三人の子を産み、そしてその三人が人類の祖先になった。(カロライン群島)
ルク(Luk)という神が大地を造って、これに樹を植えつけた後で、自分の娘のリゴアププ(Ligoapup)をそこに降ろした。リゴアププは大地に降りると、とても喉が渇いたので、樹の洞にたまっていた水を飲んだ。水の中に小さい動物が入っていたが、彼女はそれに気が付かないで、水と一緒に飲み下した。するとまもなく身重になって、一人の女の子を産んだ。女の子が大きくなって、一人の娘ができ、その娘がまた一人の男の子を生んだ。男の子が大きくなると、その脇腹の骨の一本から男ができ、その男がリゴアププと夫婦となって、この二人が人間の祖先になった。(カロライン群島)
リゴアププが、樹の洞にたまっていた水を飲んで、一人の女を生み、その女の腕から一人の男が生まれて、双の眼から男と女が生まれて、それらが人間の祖先となった。(モルトロク島)
ナレウアという神が、一本の樹に火をつけると、その火花と灰とから、人間どもが生まれ出た。ナレウアはそれらの人間に言いつけて、世界の諸地方に分かれ住むようにさせた。それが人類の祖先である。(ギルバート群島)
解釈
念の入った人類創生神話がないというには、多くの情報がある気がする。まず、リゴブンドであるが、最初の人類が三人と言う点で他の神話にはない。次にルクは大地を造り樹を造った創造主で、その娘が人類の祖先となる神である。ここでは水を飲んで子供が生まれている。水の中に小さな動物がいたというが、これはミジンコだろうか。この娘リゴアププは娘を生みそこから数えて女、女、男と産んで、その男の脇腹の骨から男ができ、その男がリゴアププの夫となったとある。この出来方はとても不思議である。と言うのもまず、小さな動物を口に入れたのは、創世記第五の日の動物だろうか。そうすると、人間が生まれた理由がこの神格にあるかもしれないということである。そして、その娘の娘の息子まではどのように生まれたのだというのだろうか。しかし、男の脇腹の骨から男が生まれたという記述が気になる。それは紛れもなく創世記でアダムの肋骨から女ができたこととほとんど同一と考えられるからである。これでは男から男が生まれている。これはアダムとイブが造られた創造を目撃したものによる業だろうか。本来アダムは複数人造られていると考えられるが、創世記の記述では若干まだアダムが一人であることを否定できない点がある。しかし、主は地を耕すアダマを造っていなかったのであり、ほかのアダムがいたのかもしれない。と言う点で、本来産めよ増えよと言われた通りアダムも複数人いたと考えられるのである。しかし、主の眼にかなったのはアダムと言われる一人の人間だったということではあるだろう。そのほかが居た根本的な根拠がなく矛盾しかねない点も多いが、しかし、インドより東の地が一体どのようにしてできたのかが不可解でならない。そして、ナレウアという神であるが、一本の樹に火をつけて人間を造ったとある。その人々は諸地方に分かれたとある。この点で思い浮かぶのは、パラグの時代であるが、ノアの子孫が分かれて棲んだことと関係がある神かもしれない。
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死の由来(その一)
オバガット(Obagat)という神様が、「人間はいつまでも生きているべきものだ」と考えた。いつまでも生きているためには、いつまでも働く内臓が備わっていなくてはならない。そこでオバガットは人間の胸に石を入れようと思った。そうすれば、人間は石のように丈夫で、いつまでたっても死ぬことはないはずだと考えたのだった。ところが、意地の悪い水鶏(くいな)が、それに反対して、「それはいけません。人間は時が来ると、病気にかかって死ななくてはなりません。だから人間の胸には、石を入れないで、ただ域だけ吹き込んでおきなさい」と言い張った。オバガットはとうとう水鶏の言うとおりにした。しかしやはり人間を死なせたくないので、自分の息子を呼んで、「お前不死の水を取っておいで。水鶏に悟られないようにしなくてはいけないよ」と言った。そこで息子はそっと出かけて行って、芋の葉に不死の水を入れて持って帰って来た。しかし、水鶏は早くもそれを見つけて、木の枝を芋の葉に投げつけたので、葉が破れて、大切な水は、あたりの樹にかかってしまった。こうして人間は死ぬようになたが、不死の水を浴びた樹だけは、いつまでも生き続けている。(ベリリュー群島)
解釈
オバガットは石を入れて不死としようとしたが、これはゴーレムの起源なのだろうか。アダムは地の土から造られたが、それとは別の方法も神々が思いついていたのかもしれない。無論そのような作り方は神の厭うことであるだろう。ここでは水鶏が人間がいつまでも生きることを拒絶している。水鶏はツル目クイナ科クイナ属に分類されるという。この鳥が人間を永遠に生きることを拒んだというが、なぜだろうか。しかし、フェニックスは不死の鳥として有名であるが、不死と言うのが鳥の能力としてあるからだろうか。つまり鳥は空に属し、人間は大地に属する。これゆえに鳥は人の不死を嫌ったのかもしれない。ノア以後の人間は寿命が短くなったこと、アダムとイブが生命の実を食べたことによって、神は「人は我々の一人のように、善悪を知る者となった。今は手を伸ばして命の樹からも取って食べ、永遠に生きる者となる恐れがある」(創世記3:22)とあるが、確かに主なる神は命の樹から食べることをよくないとした。が、その解答に至る間にはおそらく、ラーやケツアルコアトルの格闘の内に神々の行動によってそう定まったのであろうが、それは鳥によって妨げられた可能性がある。すなわち、永遠の命にあずかることがキリスト以降定まったように考えられるが、すなわち、マステマの罪が明らかとなって、鳥の不義が明らかとなったのかもしれない。すなわちノアの時からマステマの意義が神に受け入れられて、キリストの時にはすでにその不義が決定されていたと思われる。これは鳥と蛇の間のことで、マステマの意義が受け入れられた理由がすなわち蛇の不義によるものだったためであろう。それはすなわちユダがキリストの弟子となった理由であり、この問題は一人の人間では耐え難いものだったと考えられる。おそらく、最後の晩餐でユダはキリストと同様に死ぬことになっていた。しかし、ユダはそれを聞いて怒ったのである。キリストがユダを導きたかった理由はマステマの言う人の行いには目に余るものがある、というそのことのためだと考えられる。しかし、マステマが悪さをする理由とはならなかったのである。これゆえ神は日本とその近隣、韓国に対しても同様にマステマを支持することを厭われ、その不義を裁かれるであろう。つまり、鳥は悪者だったのである。イブリスは悔悟したが、マステマは悔悟しないかもしれない。マステマの悔悟は皇室が担うのかも知れない。
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死の由来(その二)
大昔ミリアル(Miliar)という女が、二人の子供を持っていた。ミリアルはある日子供たちを呼んで、「私が死んだら、体を地に埋めるのだよ。でも埋めてから七日目に掘り出してもらわなくてはならぬ。そうすると私は生き返って、また若くて綺麗になるのだから」と言った。それから間もなく彼女は死んだ。二人の子供は、教わった通りにその体を地に埋めた。そして墓場から家へ帰ってくると、途中でおいしそうな果実の成っている樹が目についた。二人は「素晴らしい果実だ。これさえあれば、幾日でも家に帰らなくていいよ」と言って、樹の側にとどまって、果実をちぎって食べていた。果実は沢山成っていた。だから二人はいつまでも樹の側を離れなかった。二人が果実を食べることに夢中になっているうちに、七日はとうに経っていた。それでも二人はまだ果実を食べていた。そのうちに、ふと死んだ母親のことを思い出した。二人は「大変だ、早くお母さんの体を掘り出さなくちゃ」と叫んで一散に墓場に駆け付けた。そして大急ぎで母親の体を掘り出してみたが、もう駄目だった。ミリアルは本当に死んでしまったのだった。こうして人間世界に死と言うものが現れたのだった。(カロライン群島)
※自然民族は人間の生死と月の盈虧(えいきょ)を結びつけて考えている。
人間は初めのうちは、月が現れると目が覚め、月が見えなくなると眠り、こうしていつまでも生き続けていたが、ある悪い精霊が邪魔をして、月が現れても、人間を眠らせて置いたために死と言う物が生じた。(カロライン群島)
解釈
ミリアルはミリアムと同一な気がする。本来、不死は永遠の命から来る、すなわち魂から来るのであって、肉から来るのではないということが、すなわち、地の原理によって不老不死を得ようとするならば、それはアンデットとしてあらわれるようである。フェニックスはこれをもたらしたということだろうか。永遠の命はアムリタであり、死の水ではない。死の水は腐った肉を溶かすために使うのである。
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火の起源(その一)
大昔、アレオプ・イット・エオニン(Areop-It-Eonin)[若い蜘蛛]という物が、ダバゲ(Dabage)という亀の吹出物から生まれた。『若い蜘蛛』が生い立って少年となると、天上界を訪れてみようと決心した。天にはいくつかの世界があったが、『若い蜘蛛』は、それを一つ一つ通り抜けて、最後の世界にやって来た。そこには雷と稲妻と『老いたる蜘蛛』が棲んていた。『老いたる蜘蛛』は『若い蜘蛛』の姿を見ると、「お前はどこからきたのか」と尋ねた。『若い蜘蛛』は「私は遠い国から来たのではない。下から昇ってきたのだ」と答えた。『老いたる蜘蛛』は「下の世界からどのように登って来られるのか」と言った。『若い蜘蛛』は「このあたりを駆け回っているとあなたがたを見つけたのでやって来た」と平気な顔で答えた。『老いたる蜘蛛』は「そうか。ではこの国にとどまることにして、私の家に住んだらいいだろう」と親切に言った。しばらくすると、彼は『若い蜘蛛』に向かって、「稲妻の家から、火を持って来てくれ。魚を煮るのだ」と言った。『若い蜘蛛』はすぐに家を飛び出そうとすると、『老いたる蜘蛛』が後から呼び止めて、「火を貰っても、決して燃木を振り回してはいけない。稲妻の夫の目を覚まして、お前を殴りつけるから」と戒めた。しかし『若い蜘蛛』は、この言葉を嘲るように、笑っただけだった。彼は稲妻の家にやってきて、彼女に「燃木をおくれ、一本でいいから」と言った。稲妻は「あげるから、しばらく待ってくれ。待ち遠しいからと言って、手を叩いたりしてはいけないよ。そんなことをすると、家の人が目を覚まして、お前を殴り殺してしまうよ」と言った。しかし『若い蜘蛛』はそんな言葉には耳も貸さないで、大きな声で、「早く燃木をおくれ」と催促した。稲妻は仕方がないので、一本の燃木を与えると、『若い蜘蛛』はそれをぐるぐる回しながら帰りかけた。すると、やがて雷が目を覚まして、凄まじい勢いで追っかけてきた。そして『若い蜘蛛』に追いつくなり、腕を上げて殴りつけようとした。しかし『若い蜘蛛』は少しも騒がず、いきなり雷の腕を掴み、ねじ折ってしまった。雷は余りの痛さに、地に倒れて、大声で泣き出した。『若い蜘蛛』は、燃木を持って人間界に帰って来た。こうして人間は火を持つようになった。(ナウル島)
解釈
アレオプ・イット・エオニンという若い蜘蛛が天上界へ行ったという。ダバゲという亀の吹出物から生まれた蜘蛛だという。天上界の最上位の世界に行って、雷と稲妻と年老いた蜘蛛に会う。ここでは年老いた蜘蛛は先祖や自分の未来を示しているのだろうか。「白髪の老人」という可能性もある。そして、稲妻から火を貰って、雷の腕を折ってしまったとある。北アメリカでも雷の話はあるが、(雷光と人間、雷光と雷とになった兄弟)そこでは雷光は世界の初め人間たちと住んでいたとある。蜘蛛や雷鳥などは雷と共に人間の祖先とつながりがあるのかもしれない。ゼウスに雷の性質があるように、その間には人間と同一のルーツを創造の日には共にしているのかもしれない。それゆえにエリクは人間となったのだろうか。これらはペルクナスというほうが正しいのかもしれない。
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火の起源(その二)
大昔、海の潮が引いたとき、小さい水たまりに二匹の魚が取り残された。水溜りは乾いてしまい、二匹の魚は死んだ。しばらくすると、腐った魚に蛆(うじ)がわいて、その蛆から二人の女が生まれ出た。ある夕方、そのうちの一人が魚を捕えに出掛けようとしたが、暗い道を照らすための松明をともすことができなかった。彼らは火というものを持っていなかったからである。女は困って、二本の棒をしきりにこすり合わせていた。しばらくすると、その手の指が熱くなったのでよく見ると、いつの間にか幽かな火花が出ていた。女は喜んで、
「火よ、火よ、どこから来るのか
火よ、火よ、私の手指の爪から来るのか
火よ、火よ、私の足指の爪から来るのか
火よ、火よ、暖かく熱く火花をあげよ
ひどく熱く、恐ろしく熱く
それがエ・カイニル(E-kainir)と呼ばれる。」
と歌った。そしてますます力を込めて、棒をすり合わせていると、やがてぱっと火が燃え上がった。こうして人間は火をもつようになった。
解釈
この話はよく聞くところがあるが、この二人の女は魚の死骸に付いた蛆から生まれたという。しかし、なぜこの女が火を手に入れたのだろうか。ここには難点がある。もしかしたら、腐った魚の霊で蛆によって生まれたが、魚は腐りたくないのかもしれない。それで火を求めていたのかもしれない。焼かれてしまえば腐らなくて済むからである。しかし、あくまでなんとなくだが、デボラを思わせる歌であると思う。生まれたばかりの子供は腐りやすい体なのかもしれない。
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洪水神話
昔、キチミル(Kitimil)にマギギ(Magigi)という夫婦の神様があった。『貪食』という神様が二人の父であったが、『貪食』は、いくら物を食べてもあくことがなかった。夫婦の神様は、この大食いの親を養うのに一生懸命だった。
ある日キチミルが、自分の砂糖黍の畑を見回りに行くと、一匹の鼠が畑に入って、砂糖黍をかじっていた。キチミルは家に帰って、妻のマギギにそのことを話した。すると、マギギは大きな息をついて、「それはきっとお父さんですよ。お腹がすいたので、鼠になって砂糖黍をかじっているんですよ」と言った。キチミルは「そんなことがあるか、鼠だ」と言った。マギギは「お父さんは鼠に姿を変える力をもっている」と言い張った。そこでキチミルはその夕方畑に罠をかけておいた。夜中に大きな物音がしたので、キチミルは鼠がかかったと思って、嬉しそうに叫びだした。妻のマギギは不審に思って、何がそんなにうれしいのかと尋ねた。キチミルが、とうとう憎い鼠をやっつけたのだというと、マギギは真っ青になって、「たいへんです。あなたはお父さんを殺したに違いありません。早くいって連れておいでなさい」と叫んだ。キチミルは畑に行って、罠にかかった鼠の死体を持って帰った。そしてそっと父親の今を覗いてみると、影も形もないので、いよいよ死んだ鼠が父親に違いないと悟った。夜が明けるとマギギは夫に向かって、「鼠の血と四本の歯を取りなさい。そして体は土に埋めなさい」と言った。キチミルがその通りにすると、マギギは気遣わしそうな様子をして、「いまにひどい暴風雨が起こって、海の水が陸に溢れて、人々はみんな溺死するでしょう。私たちは一刻も早く一番高い山に登って、七階の家を造らなければなりません」と言った。
夫婦は、木の葉と油と鼠の血と歯を携えて、高い山の頂上へ登って、そこに七階の家をこしらえた。すると、『貪食』が殺されてから七日目に、激しい暴風雨が起こって、海の水がすっかり陸地を覆った。洪水はだんだんと高まって、山頂に迫った。夫婦は一階から二階、二階から三階と逃げて行ってとうとう七階まで昇った。それでも水はまだ高まって来たので、マギギが木の葉に油をそそいで、それを水の上に置くとにわかに水が退き始めた。しばらくすると、陸地が見えるようになったので、夫婦は山を降りた。人間たちはみんなおぼれ死んだが、夫婦が七人の子を産んで、それが四方に分かれて住むようになった。(ラップ島)
一人の神が人間に殺されたので、その神の友達が怒って、大地に洪水をおこすことになった。神々は、一人の年取った女にだけ自分たちの企てを打ち明け、筏を造って逃げるように勧めた。女はその通りにしたが、錨を下ろす綱がなかったため、水が筏を浸して、女を溺死させた。女の体が水の上を漂っているうちに、頭髪が木の枝に引っかかって、女は石に化した。その石が今日でも残っているという。(ベリリュー島)
解釈
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悪戯好きの神
最高神ルケ・ラング(Luke-lang)には、幾人かの男の子があった。一番年上のオロファット(OlofatもしくはOlifat)は、生まれつき非常に利口で、そして悪戯好きだった。ある時オロファットが、天上界から人間世界を見下ろすと、二人の子供が二匹の鮫を捕えて、池の中でそれを弄んでいた。悪戯者のオロファットは、すぐに人間世界に降りてきて、鮫の口にに鋭い歯を生やしてやったので、鮫は子供の手をひどく嚙んだ。子供たちは泣きながら家に帰って、母親のリゴアププに、鮫が嚙みついたことを訴えた。リゴアププは、オロファットの妹で、兄が悪戯者であることをよく知っていたので、池の端に誰かいなかったかと尋ねた。子供たちは立派な男がいたと答えた。リゴアププは、その男こそオロファットに違いないと思って、「ではその人をここに連れておいで」と言った。子供たちが池の端に行ってみると、立派な若い男はいなくなって、その代わりに白髪交じりの老人が、埃だらけになって立っていた。子供たちはすぐに駆け戻って、さっきの人は既にいなく、汚いお爺さんがいたと言った。リゴアププは「誰でも構わないから、池の端にいる人を連れておいで」と言った。そこで子供たちがまた池の端にやってくると、いつの間にか老人もいなくなって、糞が堆くなってあった。子供たちは驚いて取って返して、「池の端には誰もいない、大きな糞があるだけだった。」と言った。リゴアププは「ではその糞に、『あなたはオロファットでしょう。そうだったら私のお母さんの所に来てください』というんです」と教えた。子供たちが糞に向かって、教わった通りに言うと、糞はたちまち元の姿に戻って、子供たちと一緒にリゴアププの家にやって来た。彼女はオロファットに向かって、「兄さんは、なぜ鮫の口に歯を生やして、子供に怪我をさせたのです」と責めた。オロファットは「だって弟のルク(Luk)の奴が、私より立派な容貌をして、私より勢力があるだろう。それが癪に障るから。ちょっと悪戯をしてみたのだ。私はあらゆる鮫の口に歯を生やして、人間と言う人間を取って食うようにするつもりだ」と答えた。天上界にいるルク神がすぐにこれを知って、その妻に「オロファットは、ぜひ天上界に呼び戻さなくてはならない。人間世界にいると、碌なことはしないから」と言った。妻は「ええ、そうですよ。早くこちらにおびき寄せなくては、人間が滅びてしまう」と答えた。ルクはオロファットを天上界におびき寄せるために、大きな館を建て始めた。館ができると、盛んな宴を催して、すべての神々を招いた。オロファットは早くもそれを聞きつけて、のこのこと天上界に帰って来た。すると、ルクはオロファットを捕えて、大きな魚籠(びく)に押し込んで、海の中に沈めてしまった。五日経って、「もうオロファットは死んでしまったに違いない」と二人の神が丸木舟に乗って、海の上を漕ぎ出して、魚籠を引き上げた。しかし魚籠の中には、大きな魚が沢山入っているだけで、オロファットの姿は見えなかった。二人の神が驚きあきれていると、自分たちの側で笑う者があった。見ると、オロファットがすまして丸木舟の中に座り込んでいた。オロファットは、二人に向かって、「さあ、私が手助けをしてやろう。早くその魚を船に移すがいい」と言った。そして彼は二人から魚を渡される毎に中身の肉を抜いてしまって、河だけにしてしまった。魚を船の中に移してしまうと、オロファットは、そのうちの小さいのを五、六匹自分の物にもらった。それだけは中身を抜いてなかったのであった。二人の神は怪しんで、「どうしてそんな小さい魚を貰うのかね」と尋ねた。オロファットはすまして、「大きいのはルクにやることにしよう。私は小さいので沢山だ」と答えた。
二人の神が魚を持って帰って、ルクにそれを渡すと、ルクは召使いに言いつけて、みんな料理させた。そして集まっている客人たちの前に出して、「さあ、みんな遠慮なく食べていただきたい」と言った。客人たちは喜んで、めいめい魚を取り上げた。そしてそれを食べようとすると、肉は少しもついていないで、皮ばかりであった。客人たちは仕方がないので、果物だけを食べていた。ルクは自分や客人たちの魚に肉がついていないのを驚き怪しみながら、オロファットの方を見やると、オロファットだけはさも旨そうに魚の肉を食べていた。ルクは「さては、また悪戯をしたんだな。おかげで客人の前で大恥をかいた」と火のように怒りだして、雷を呼び出して、オロファットを殺させることにした。ルクは召使たちを呼んで、「雷を連れて来るがいい。土産にご馳走を持っていくのだ」と言った。召使たちはご馳走を用意して出かけた。すると、オロファットが途中に待ち伏せしていて、ご馳走を奪い取って、自分でそれを雷の家に持って行った。雷がルクの下にやってくると、ルクは「オロファットを殺してくれ」と言った。雷はすぐに激しい火を出して、オロファットを殺そうとしたが、オロファットは、隠していた椰子の汁を取り出して、その火を消してしまった。ルクはまた召使を呼んで、「アヌラップ(Anulap)を連れて来るがいい。土産にご馳走を持っていくのだ」と言った。。召使たちはご馳走を用意して出かけたが、また途中に待ち伏せしていたオロファットのためにそれを奪い取られた。オロファットはご馳走を持って、アヌラップ神のところに行って、「ルクがお前に来てもらいたいと言っているよ。これはお土産だ」と言った。アヌラップがルクの下にやってくるとルクは「オロファットを殺してくれ」と言った。アヌラップは頑丈な綱の先に大きな鈎をつけたのを取り出すなり、オロファット目掛けて投げつけた。綱は見事にオロファットの首に巻き付いた。しかしオロファットは手早く貽貝を取り出して、その綱を断ってしまった。そしていきなり駆けだしたかと思うと、アヌラップの家に飛んで行って、入口の所に座り込んでいた。帰って来たアヌラップは、彼の姿を見ると、たちまち大きな棒を振って撃ってかかった。しかし、その途端オロファットは早くも臼に姿を変えていたので、アヌラップは、きょろきょろと当たりを見回しながら、その妻に、「オロファットはどこに行った。たったいまここにいたんだが」と尋ねた。妻は「きっと逃げだしてしまったのでしょう」と答えた。そして二人とも眠ってしまった。オロファットをやっつけることができないので、ルクは大いに気を焦らせた。彼はいろいろと考えた末に、人々を呼び出して、「門をこしらえるつもりだから、森に行って、大きな樹を伐ってきてもらいたい」と言った。人々はすぐに森に行って、大きな樹を沢山切って来た。ルクは使いをやってオロファットを呼び寄せた。そして、「門をこしらえるつもりで、大きな樹を取り寄せて置いた。ご苦労だが、地面に深い穴を三つほど掘ってくれ。それに柱を立てるつもりだから」と言った。オロファットはにやりと笑って、「よろしい、掘ってやろう」と答えた。そしてすぐに三つの穴を掘ったが、みんなが気が付かないうちに、三つの穴にそれぞれ隠道を穿っておいた。ルクは穴から上って来たオロファットに声をかけて、「いいかね、柱を下ろすよ。お前、柱の下の方を持って、程よく立ててくれ」と言った。オロファットはまたにやりと笑った。そして、「いいとも、早く柱を下ろしてくれ」と叫んだ。大勢の者が大きな樹を抱えて、穴の側に持ってきた。オロファットが木の下の方を抱えようとすると、人々はいきなりその腰を突いて、穴の中に突き落とした。ルクはそれを見て、「しめた、早く柱を下ろせ」と叫んだ。柱は凄まじい音を立てて、穴の中に突き込まれた。しかし、穴の中のオロファットは素早く体をかわして、トンネルの中に潜り込んだのであった。そんなこととは夢にも知らないで、ルクは、「今度こそあいつをやっつけることができた」と喜んでいた。
トンネルの中に潜り込んでいたオロファットは、かねて用意していた胡桃(くるみ)と石とを取り出して、石で胡桃を叩き割っては、その中の肉を食べていた。そのうちに沢山の蟻が群がって来て、胡桃の皮を引っ張って、トンネルから大地の上に現れた。人々はそれを見ると、「蟻どもが、オロファットの肉の片を引っ張って来た。さてはあの悪戯者もいよいよ死んでしまったな」と話し合っていた。二、三日経つと、オロファットはありに姿を変えて、本当の蟻の群れに交じって、トンネルを伝って地面に現れた。そして樹に這い上って、一人の男の上にぼ鳥と落ちかかると、その男は慌てて手でそれを払い落とした。途端にオロファットが元の姿に返ったので、みんなびっくりした。ルクはそれを見ると、急いでサメンコアネル(Samenkoaner)という神を招いて、「どうしてもオロファットが死なないのはどうした訳だろう。お前はあいつを殺すことはできないか」と尋ねた。サメンコアネルは「できません。一晩中考えてみたところで、オロファットを殺す手段は思いつきそうにありませんね」とサメンコアネルが答えた。ルクは眉をひそめて、「困ったな、あの男を生かしておくと、人間どもが滅びてしまう」と言った。これを聞くと、ルクの妹の『鼠』が。「ではオロファットを焼き殺すことにしたらどうでしょう」と言った。それがよかろうというので、ルクはみんなに言いつけて、盛んに火を燃やさせた。そしてオロファットを呼び出すと、彼は、「また、何か企んだな」と言いながら、のこのこと現れて来た。人々はやにわに彼を抱き上げて、猛火の中に投げ込んだ。しかしオロファットは、かねて椰子の繊維を丸く巻いて持っていたので、その中をくぐって、無事に火の中から這い出して来た。それを見ると、ルクはもう呆れ果てて、妹に向かって、「私たちは、オロファットを殺そうと、あらゆる手段を尽くしたが、みんな駄目であった」と言うと、妹も、「あの男は死ぬことができないんです。仕方がありません。あの男をあらゆる邪悪な者の首領にしましょう」と答えた。こうしてオロファットは、あらゆる邪悪な、悪戯好きの首領になった。(カロライン群島)
解釈
まず、この神話を見て思い出すのが、北欧神話のロキである。人間界に出入りできる点と、オーストラリアではキツツキが虹をかけたとあり、ミクロネシアはビフレストを思い起こさせるのである。ウトガルドはまた、インドであるようにも思うので、東南アジアはビフレストによってオーディンが現れることがあるのではないかと思う訳である。しかし、ここではルクと言う神がオロファットの邪魔をするのであるが、このような天敵は北欧神話にはないように思う。共通点はあるものの話の内容は異なっているのかもしれない。それから、鮫はもともと歯を持っておらず、オロファットによって人間を食らうようになったとある。ポリネシアでも鮫についての話がある。この点で鮫はただ悪戯に人間を食うようには造られていないようにも思うのである。ハワイの神話に二つほどある。ある意味では鮫は鳥を罰しているのかもしれない。
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